夏の終わりのふたり

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夏の終わりのふたり

小さな出版社に勤務する山辺里子が 作家 石上徹の担当になったのは、 一年前の『暑い夏の日』。 小説『朝露の君』の編集作業で 時間を伴に過ごすようになった石上と里子。 出来上がった小説は見事に 『文芸新人賞』を受賞した。 彼は受賞式の壇上から、里子を見つけると 優しく微笑んだ。 石上が描き上げた新作『夏の終わり』には、 里子との出会いから始まる彼の『想い』を 込めたんだものだと石上から告げられた里子。 石上の『想い』に応えるように里子も 彼に彼女の『想い』を告げた。 窓の外から聞こえていた蝉の声は、 いつの間にか、蜩の声に変わる。 暑かった夏は、 黄昏雲とともに、終わりを告げた。 窓から見える夕焼雲を見上げるふたり…… 「いつの間にか夏が終わってしまいましたね」 里子の顔を見て石上が微笑んだ。 「本当ですね……秋の風と共に  鈴虫の鳴き声が聴こえてくるようですね」  里子も石上を見つめるとそう語った。
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