石上、男を見せろ!

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編集部に編集長の上戸が入って来ると いつものように自席に座り、デスク上に 置かれた書類に目を通す。 しばらくすると、上戸が顔を上げ、 「山辺君……ちょっといいか?」 と里子を呼ぶ声がした。 「はい……」里子が椅子から立ち上がり 上戸の元に向かう。 編集部内のスタッフが一斉に 顔を上げ、里子に視線を向ける。 皆の視線を背に受けながら、 里子は、上戸の前に立つと、 上戸は「山辺さん、お見合いのことだけど……」 上戸がそう言いかけた時だった。 バターン……。 編集部のドアが勢いよく開く音がした。 皆が一斉にドアの方向を見る……。 勿論、里子もその音に驚き振り向いた。 そこには、息を切らした石上が立っていた。 「先生……」呟く里子。 石上は肩を上下に揺らしながら、 里子の前に向かって歩いて来くると、 「里子さん、僕がいるのにお見合いなんか  しないでください。  お見合いするくらいなら、僕のお嫁さんに  なってください。  こんな、僕ですがあなたを想うきもちは  誰にも負けません。  あなたのことを全力で幸せにします。  約束します」と告げた。 石上の突然の登場に驚いていた里子だったが、 「先生……私でいいんですか?」呟いた。 「いいって……何が?」 「先生のお嫁さんになってもいいのかな?」 「あたり前じゃないですか。  僕のお嫁さんはあなた以外には  考えられない……」  石上が優しく微笑んだ。 「私も、私のお婿さんは先生以外に 考えられない……」 と言うと里子は石上に抱き着くと、 石上も里子を抱きしめた。 『ヒュ~ヒュ~』と言う声とともに編集部内にいた すべての人が二人を祝福する。 鳴りやまない拍手…… 「よっ!ご両人、お似合いですよ」 と村尾が叫ぶ。 石上と里子は見つめ合うと満面の笑みを 浮かべた。 「やっと男をみせましたね!先生……」 嬉しそうな村尾がそう呟く。 「あのう……  お取込み中のところ大変申し訳ないのだが……」 編集長の上戸が皆に話しかける。 石上、里子をはじめ全員が上戸の方を見ると、 上戸が…… 「実は……大変言いにくいんだが、  山辺さんのお見合いの件は、なかったことに  してくれって、さっき取引先の社長から  連絡が入ったんだよ……」 「え?どういうことですか?」石上が尋ねた。 「いや~、先方の社長が息子さんに内緒で  お見合いの話を進めていたそうなんだが、  それが、息子さんにバレて、息子さんにも  将来を決めた女性がいたみたいでね。  それで、山辺さんには申し訳ないけど、  この話はなかったことにしてほしいと……」  同僚が呟く…… 「それじゃ、お見合い話は白紙……」 「と言うことは……」 「石上先生、山辺さん、  おめでとうございます~万歳!万歳!」 と再度祝福される二人。 村尾が「勇気を出して乗り込んで来た先生を、  胴上げしましょう」と言うと、男性陣が 石上の身体を持ち上げ、胴上げをを始めた。 編集部内で宙に舞う笑顔の石上を見た 里子も幸せそうな笑みを浮かべていた。
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