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「はれ? たいてんさん……? あ、こんにちはー」
美也がうつろな様子で挨拶をしたので、帯天は美也の唇に手を当てて、しゃべらないでください、と示した。
愛しの美也の唇に勝手に触れられて、榊は一瞬帯天を引き離したくなったが、こと治癒に関しては帯天より頼れる者はいないのでぐっと我慢した。
天界の龍神で榊の力から造られたわけではない開斗は自分の考えで美也のことが大好きだが、帯天は榊が創った使役なので、基本的に美也への感情は榊と同じものになってしまう。
今更だが榊は、帯天に美也を略奪される可能性に気づいてしまった。
「……なんだ、帯天」
帯天から軽蔑するようなジト目で見られた。
あほくさ、と顔に書いてある。
美也のことになると、人間の傍にいることで得てきた常識がすっぽ抜けてしまう榊だった。
帯天は美也の額に手をかざして、目を閉じた。冷えた空気が辺りを満たし、美也の頬から異常な赤みが抜けていく。
次に目を開けた帯天は、厳しい顔をしていた。
「帯天? 美也の様子はどうだ」
榊が問うと、帯天は難しい顔のまま、榊を見た。
『これは瘴気(しょうき)に御座います。榊様』
「瘴気……?」
榊の使役であるので、帯天自身が声を持っていなくても、主人との意思疎通は可能だった。
『はい。美也様が生まれる前に受けられたもののようです。おそらく……前世の頃』
榊が息を呑む。
「――、あの頃、何があったかわかるのか?」
『いえ……ただ、とてつもない瘴気をその身に受けられてしまったこと以外は……。今まで表に出てこなかった理由はわかりかねますが、これが最後の瘴気の影響かと思います。……しかし榊様、巫女様は前世以来、生まれ変わっておられないのですよね?』
「……」
榊は黙ってうなずいた。
『だとしたら……この数千年をかけて、巫女様の魂は瘴気の浄化をしてきたのかもしれません……。生まれ変わった美也様の魂にまだ瘴気が残っていたようですから、相当強力なものと思いますが……』
「……前世、無体な真似はされていないか、わかるか」
『そこは心配ないようです。乙女であった様子もうかがえます』
「……そうか」
そう答えた榊は、そっと美也の頬に手を当てた。
帯天が突然の熱の原因である瘴気を取ったことから、触れた頬は少しひやりとした。だが、生きているとわかるあたたかさ。
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