5 あの日、あの神殿で

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5 あの日、あの神殿で

「はあっ……はあっ……」 巫女は無我夢中で神殿の中を駆けていた。 巫女以外の人間が入ることをゆるされていないここに、助けてくれる人はいない。 「龍神様……! いえ、目覚められるまでまだ時間は必要なはず。榊様っ……遠すぎる……せめて、ツカサ様にこのことをお伝えしなければ……!」 黒い霧のようなものが、巫女の足元までやってきた。 なんとか逃げようとするも、からめとられ呑み込まれてしまう。 (これは……なに? あやかしでも神堕ちでもない……瘴気? でも、瘴気がこんな意思を持ったように動くなんて……) ただ黒しかない世界で、落ちそうになる意識を奮い立たせ巫女は考えた。 頭を動かしていないと、思考まで吞み込まれてしまいそうだ。 水の上にたゆたうような浮遊感。懸命に意識を保とうとするも、巫女の瞼はだんだんおりていった。 重い。身体が。ここはなんだ? 私は生きているのか? それとも、もう…… 「―――」 闇を切り裂くような一条の光が、巫女の瞼に明るさをもたらした。 「巫女殿!」 声とともに黒い霧が徐々に消えていくのを感じた巫女は、だるい体と重たい瞼で地面に横たわっていた。なんとか持ち上げた瞼。 「……サク、ヤ、さま……?」 巫女のぼやけた視界に映ったのは、サクヤという名の、何度か逢ったことがある人物だった。 金糸と銀糸を混ぜたような色の長い髪に、左右で違う色の瞳。忘れるはずがない美貌。 「ご無事ですか!? 巫女殿、瘴気に取り込まれていたようですが……」 「しょう、き……」 巫女の声はかすれている。どれほどの時間が経ったのかわからない。 だが、自分は助けられたということは理解できた。 サクヤは剣を手にしていた。 外に出たことすらない姫君のように重ね着た着物姿には似つかわしくないのに、不思議と当たり前のような光景だと思えた。 そして重いだろう剣を、サクヤは軽々と扱っている。 巫女の唇から、息がもれた。 「わたし、は……もう……さかきさまの、ところへは……いけません……」
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