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ある夏の日の夕暮れ。砂浜でのこと。
誰かの描いた猫の絵も、知らないキャラクターの絵も誰かに踏まれ、波に攫われ面影一つ残っていない。
誰かに建てられた立派な砂の城もいまでは朽ちた廃城のようにボロボロと崩れている。
ただぽつねんと佇む少女。
そんな少女を西陽が照らし、オレンジ色で世界を包み込む。
少女はヤシの木の元へ寄りもたれ掛かる。そして波の音を背景に語りかける。
——静かになったね。
ヤシの葉が風に揺られ音を立てる。
——ちょっと寒いや
薄手の服を指で摘み、軽く笑う。
—— ♪♪〜
そして口ずさむ。少女のお気に入りの歌だ。ここに居るのは少女ただ一人、誰も咎める人はいない。
だんだんとオレンジ色の絵の具に墨汁が混ざり出し、黄色い光が顔をのぞかせる。所々にスパンコールを散りばめて。
突然歌が止まる。ふぅと一つ小さなため息をつき、少女はスカートについた砂を払いつつ立ち上がる。
——またね。
誰に言ったでもないその言葉を最後に、波の音だけがその場に残り続けた。
人は成長し、見た目、環境、考え方など目まぐるしく変わっていく。
しかし、何一つ変わらぬ景色、思い出もそこには確かに存在する。
これまでもそしてこれからも件のヤシの木はそこに居続けるのだろう。
波の音が響く砂浜で、月の光に照らされた一本のヤシの木は風に揺られわさわさと揺れるのだった。
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