1

1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ

1

武藤卓治と桐子は離婚した。 結婚したのは卓治が26の時、10年目の離婚である。 2人の間に子供はできなかった。 どちらに問題があるのかは判らなかったが、結婚生活が6年を過ぎる頃から、もうそれは諦めていた。 卓治としては、このまま一生、2人で生きていけばイイかなと言う思いだったが、お互いの気持ちは年々、はたで見ていても判るほど離れていった。 愛情は無くなり、干渉もしなくなったが、それでもお互い、相手のちょっとした言動に腹が立ち、口論になることも少なく無かった。 子供が出来ないと言うのも1つの理由なのだろう。 が、そんな生活が続いていたある日、突然桐子が 「離婚しましょ」 と言って来た時は、やはり卓治はショックはあった。 「こんな状態で一緒に暮らしててもしょうが無いでしょ」 桐子はいつものように、冷めた口調で言った。 それに対し 「そうだな、それがイイかも」 卓治もそう答えた。 確かに、なんの未練もないし、彼としても離婚は頭にあったが、ただ、先を取られたのが、なんとなく歯がゆく感じた。 それから2日後。 桐子は役所から貰って来た離婚届をテーブルの上に置いた。 お互いそれに署名すると 「明後日家を出るわ。荷物は…そんな大して無いけど、早目に取りに来る」 と桐子は言い、その通りそれから2日後、卓治の前から姿を見せなくなった。 数日たつと、彼女の服などの私物類は、いつの間にか無くなっていた。 平日昼間、卓治が仕事に出ている間に取りに来たのだろう。 (妻はココを出て、ドコに行くのか)
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!