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美咲は余裕の笑みを浮かべた。 周りのクラスメート達は美咲に視線を送っていた。 それは決してイヤな視線ではなく、なんかあった時には頼りになる人と言うような、敬意のものであった。 タカコも 「驚いちゃった。ケンカ強いんだね」 と、瞳を輝かせていた。 「えー、どないやろ。せやけど、降り掛かった火の粉は払わなアカンしな」 「私、人が殴り合いのケンカしてるの始めて見たー」 と、ちょっとSっ毛でもあるのか、タカコが声を弾ませて言ったその時、翔が教室に入って来た。 何か薬でも塗られたのか、顔はテカって おり、額と頬に絆創膏。 それを見たタカコは一瞬「ウフッ」と笑ったが、(ヤバ)と目線をそらした。 全クラスメートも、大体そんなリアクションだった。 翔が席に着くと、源と裕太郎が 「オイ、大丈夫か?」 的なことを言って、翔に寄った。 その時、掃除時間の音楽が鳴り出した。 帰りの会が終わると、皆、バラけて行った。 タカコは美咲に 「途中まで一緒に帰ろ?」 と誘った。 「うん、エエよ」 と返事し、ランドセルを背負った美咲の元へ南先生が寄って来て 「家庭訪問のことが書いてあるから、これ、保護者の方に渡してね」 と、プリントを1枚渡した。 「あ、ハイ。卓ちゃんに言う時ますわ」 「え?卓ちゃん?」 少し驚いたように言い返し、南は口をつぐんだ。 「ムトー卓治なんで卓ちゃんと呼んでます」 美咲が明るく言うと 「そう呼んでるんだー。へぇー」 南は微笑ましい目をした。 「今日は、ご迷惑をおかけしました」 美咲は頭を深々と下げると 「タカコちゃん、帰ろ」 待っていたタカコに声をかけた。 2人が教室から出るのを見届けると、 南先生は (これからどうなるやら) と、少々不安な、苦笑いを浮かべた。
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