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「………」
卓治は腕を組み、返答しなかった。
と、里子が顔を上げ
「実は、今、もう、来てんねん」
と言い出した。
「え?今って?ここ連れて来てんの?」
「そうや」
「ドコに?」
卓治は背と首を伸ばした。
「ちょっと待っててな」
里子は一旦出て行ったアト、女の子を連れて入って来た。
待たせてあったタクシーで、ずっと待っていたらしい。
「ホラ、卓ちゃんやで」
里子が女の子の頭に軽く手を添えると、彼女は深くお辞儀をした。
赤いランドセルを背負い、おかっぱ頭で、浅黒い、活発で健康そうな子である。
「覚えてへん?卓ちゃんのコト」
里子はしゃがみ、美咲と同じ目線で言った。
「なんとなく…会ったコトがあるような…」
美咲は首を2、3度振り、自信無さそうに答えた。
「今日からな、美咲、卓ちゃんと一緒に暮らすんやで。エエな」
里子が言うと卓治は
「ちょ、ちょっと」
と、右手を出したが、そのアトの言葉が出て来なかった。
(だから、勝手に決められてもオレだって困るんだって)
そう、喉から出かかったが、女の子を目の前にして言えなかった。
「ホナ、お願いします言わな」
里子が美咲に催促すると
「卓ちゃん、これからお願いします」
と、彼女はまた深くお辞儀をした。
「え?あ、ああ」
イキナリ卓ちゃんと呼ばれ面食らったが、里子や親戚連中が卓ちゃんと呼んでるせいであろう。
その里子は
「ホナ、卓ちゃん、頼むで。
たまに私も様子見にくるよってな。
申し訳無いな。必要なもんはアトで送るわ。あ、それと、コッチの美咲が通う学校にも連絡は入れ、事情は大方説明してあるから、その点は心配せんでエエから」
と、そそくさと玄関に向かった。
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