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精霊会(しょうりょうえ)
閻魔庁に近づいていくと、いつもと違うアナウンスが流れていた。
「精霊会の対象の皆様は、5階特設窓口までお越しください」
もしかして、初盆に現世へ戻る手続きだろうか。
案内窓口へ行ってみることにした。
1階の奥に「i」マークのデスクがある。
みんな迷わずに手続きしているようだが、久之はまごついてばかりだった。
全面ガラス張りの近代的なビルは、奥まで陽が届いて明るかった。
床は御影石のように煌めくダークグレイ。
磨き上げられてツルツルしていた。
壁面は白壁で、シンプルな内装である。
観葉植物などもなく、広い空間を鬼たちが忙しそうに行き来する。
相変わらず長い行列を作って、さまざまな民族の人間がきちんと待っていた。
「すみません。
今年僕は、初盆なのですが家族に会えるのでしょうか」
受け付けの鬼は、口から長い牙を覗かせている。
鋭い眼で辺りを見渡していた。
声をかけると視線を合わせて、ニコリと笑った。
「初盆ですか。
この度はご愁傷さまでした。
さぞかしご家族に会いたいことでしょう」
カタカタとキーボードを打ち、鬼籍を検索し始めた。
氏名と生年月日、没年月日から分かるようだ。
「ふむ。
なるほど。
不慮の事故ですか ───」
顎をさすりながら、しきりに唸った。
「難しい案件ですね。
鬼籍には記載がありませんが、初盆の扱いが決まっているはずです。
ちょうど特設窓口が始まったところです。
5階でお問い合わせください。
相談があったことは記録しておきます」
閻魔庁の「全館案内図」と書かれたリーフレットを受け取った。
「こちらです。
中央のエレベータは混みますから、エスカレーターをご利用ください」
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