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「山荘の惨劇」
物語は、とある自然豊かな山奥にあるキャンプ場にやって来た大学生の福島・高岡・野々村の男子三人と優子・美香の女子二人の話。
そのキャンプ場にはいくつもの山荘が建ち並び、かつては夏になると多くの家族連れや若者たちで賑わっていた。近くには綺麗な川も流れていて、釣り人も多く訪れていた。
だが、ある噂が広がったことで山やキャンプ場に訪れる人が減り、それらの山荘が売りに出された。
その一つを福島の父親が買い取り、長く放置していた。それを知った福島は父親から鍵を借り、恋人の優子を含む友人四人を山荘に誘ったのだった。
キャンプ場へは高岡が運転する車で向かった。学生最後の思い出作りに、一同は心を躍らせ浮かれていた。
そしてキャンプ場に到着すると、案の定周囲には誰もおらず貸し切り状態。五人は近くの川に向かうと、そこでバーベキューをしたり釣りや川遊びをしたりと各々楽しんでいた。
一頻り遊んだ後、福島が、
「この山に呪いの家と呼ばれる心霊スポットがあるらしいから探索しに行こう」
と言い出した。
オカルト好きだった福島は、それが目的でもあった。
その噂は数多く、どこからか赤ん坊の泣き声や男女の話し声が聞こえたり、二階を歩く足音が聞こえたりというものから、地下室で白い服を着た女の亡霊を見た者は呪われるというものだった。
高岡は無関心。怖がりな優子と野々村は反対をしたが、福島と好奇心旺盛だった美香に押し切られる形で、一同は呪いの家に向かうことになる。
場所はキャンプ場からそう遠くはない山の中。福島を先頭に山道をしばらく歩くと、そこに小さな診療所とその隣に二階建ての一軒家が建っていた。
二つの建物はすでに廃屋。
玄関のドアには鍵がかかっていないが建付けは悪かった。
福島が力ずくでドアを開けると、薄暗く埃まみれの廊下と二階へ続く階段が姿を現した。
福島を先頭に、一同は家の中に入っていく。
玄関から伸びた廊下には、トイレと浴室のドアがあり、突き当りには居間と台所があった。廊下はさらにL字に曲がり伸びていた。
野々村が記録用に持っていたビデオカメラを回しながら、一同は一階から探索し始めた。
どの部屋も、かつての住人の物と思われる家具や物がそのまま残っていたが、どれも埃まみれで朽ち果てていた。招かれざる客のせいか、床には物が散乱し、ガラス戸は大きなヒビが入っていた。
廊下の突き当りには、鍵付きの不自然なドアを見つけたが、開けることは出来なかった。
二階から誰かの足音が聞こえた。
噂の真相を確かめようと、福島を含む三人が二階へ向かった。
二階の床は一階よりも軋み、天井や床は蜘蛛の巣と埃まみれだった。
二階にあったのは何もない和室と、古びた本棚と埃まみれの机がある書斎、そしてまた鍵のかかった部屋だった。足音の正体もわからず、特に何も起こらないまま、三人は書斎で古びた鍵を見つけた。
だが、それは二階の部屋の鍵ではなかった。
一階に戻った三人は残りの二人と合流し、一階の鍵のかかった部屋で古びた鍵を使ってみた。
すると鍵は開き、ドアの先は地下へ続く階段だった。
福島、美香、野々村が地下へ向かい、残りがその場に留まった。
階段の天井には裸電球があるが、スイッチを押したところで明かりが灯ることはない。暗い階段を、福島を先頭にスマホの明かりを頼りに、ゆっくりと階段を降りていく。
この時、野々村が撮っていた映像にわずかなノイズが現れるようになり、不穏な足音が近づいてくる。
階段の一番下にはまた扉があり、周囲にはお札のようなものがいくつも貼られていた形跡がある。
それでも福島は扉を開けた。
漂ってくるカビのニオイ。そこは薄暗いコンクリートで囲まれた地下室。天井付近にある小さな窓から、僅かばかりの光が見えた。
中に入ると湿気が皮膚に纏わりつき、不快な甘い香りに気づいた三人は眉をしかめた。
福島はスマホの明かりで地下室を照らした。
壁や床が黒く変色し、天井には監視カメラらしき残骸がある。
奥には古いベッドと、壁には鎖を繋げる金具の痕跡があった。
野々村はビデオカメラを回しながら古いベッドに近づいた。
グチャリ。
野々村が古いベッドの手前で何かを踏んだ。
カメラを向けると、そこには黒い肉の塊のようなものが異臭を放っていた。そして、その横には人骨らしきものが転がっていた。
それを見てまずいと感じた三人は、地下室から出ようと踵を返した。
その時、三人の背後から地を這うような呻き声と鎖同士が擦れる音が聞こえ、三人は思わず足を止めた。
福島がゆっくりと振り向くと、破れた白いスカートの裾と枷をはめられた赤黒く汚れたか細い足が見えた。
福島は「逃げろ!」と叫び、出口に向かって走り出すと、美香や野々村も遅れて出口に走り出した。
福島と美香は地下室の外に逃げたが、野々村は扉を目前に何かに足を掴まれ転倒した。
パニックになる野々村。
そんな野々村を助けようとしたが、扉が勝手に閉まってしまう。
中から野々村の助けを求める声が聞こえるが、扉はビクともしない。
野々村の断末魔が聞こえると、福島は怖くなり手を止めた。
声に驚いた高岡が地下に下りてきた。
野々村の声が消えなくなり、福島は恐る恐る扉を押した。
すると、さっきは開かなかった扉が開いた。
恐る恐る、福島がスマホの明かりで中を照らすも、野々村の姿はない。
中に入って探したが、野々村の姿が忽然と消えていた。ただ、野々村が持っていたビデオカメラだけが床に落ちていた。
戸惑う福島に、高岡はビデオカメラを拾い上げた。
優子と美香は酷く怯えていた。
いつの間にか雨が降り出し、野々村は明るくなってから探すことにして、四人は雨の降る山道を走って山荘に一度戻ることにした。
ずぶ濡れになりながら山荘に戻ってきた四人。四名は、あの家での出来事を受け入れられずに動揺していた。
どうにか平常心を取り戻そうと、福島はシャワーを浴びに浴室に向かい、美香はかかってきた電話を取るため二階へ向かった。優子はタオルを握りしめながらソファに腰かけ、ただただ自分を落ち着かせていた。
そんな中、高岡は残された野々村のビデオカメラを調べ始めた。
あの家での映像は、地下室に行くまで途切れることなく撮影されていた。一階も二階の様子も野々村の息遣いまでもがしっかりと収められていた。
あの地下室でも、暗視モードで綺麗に映っていた。
それは、野々村が古いベッドと黒い塊を撮っていた時だった。
雑音の中に女の呻き声が聞こえると、福島が走れと叫び出口に向かって走りだした。野々村も走り出したが、途中で躓いて倒れた。
とっさに振り返ったその映像には、野々村の足にか細く手首に枷のついた手がしがみ付いていた。
野々村はビデオカメラを手放し、床を這いながらも必死で出口に向かう様子が映っていた。
すると、野々村の背後に痩せこけた顔の真っ黒な目をした、皮膚が剥けて骨が露になった白い服を着た女が映りこんだ。
そして、野々村の断末魔が聞こえた後、映像はノイズで乱れ何も映らなくなった。
映像はそこで終了だと思った。実際、地下室を出てから録画はしていないのだから。
だが、一度真っ暗になった映像が次に映し出したのはどこかの狭い場所。天井から見下ろすし、男がシャワーを浴びているのが映っていた。その男は福島で、場所は浴室だった。福島も何かを感じているのか、しきりに辺りを見回しているようだった。
突然、雷鳴とともに山荘内が停電した。
真っ暗な中、雷に驚いた女子二人の悲鳴が聞こえた。
慌てて浴室から出てきた福島の指示で、高岡は懐中電灯を手にブレーカーを調べに外に出た。
山荘の外は真っ暗な森が広がっている。
高岡がブレーカーの前にやってくると、背後から足音と何かの気配を感じ、野々村の名前を呼びながら、持っていた懐中電灯で木々の間を照らした。
だが、そこには誰もおらず木々や風に揺れる草木だけが浮かび上がった。
幸い、電気はすぐに復旧し、高岡は足早に室内に戻った。
すっかり疲れ果ててしまった四人。食事もとらず、四人は男女に分かれて二階の寝室で眠りについた。
しばらくして、寝ていた高岡は耳元で聞こえてくる呻き声と呪詛のような声に気づいて目が覚める。
その声が聞こえる方を向くと、隣のベッドで寝ている福島の体に馬乗りになりながら首を絞めている美香がいた。その顔はまるで悪霊に取り憑かれたような恐ろしい形相だった。
福島の喉元には美香の爪が深く食い込み、口や首から血が溢れてシーツや床が血に染まっていた。
高岡は慌てて美香を引き離す。
すると、福島は顎をガクガクさせたあと事切れた。
我に返った美香は、福島を見て発狂すると、そのまま部屋を飛び出していった。
騒ぎに気づいた優子は、ベッドに横たわる血塗れの福島を見て泣き崩れた。
その時、高岡は背後に気配を感じたが、振り返ってもそこには誰もいなかった。
とにかく美香を連れ戻さなければ。
高岡は泣き崩れている優子を落ち着かせ、警察を呼ぶようにと伝えると、懐中電灯を手に持ち外に出た。
外はすでに雨が止み、空には月が出ていたが、木々に覆われた山は不気味なほど暗かった。
高岡は当てもなく足場の悪い山中を、美香を探して彷徨っていた。
ふと木々の隙間から歩く人影が見つけた。
高岡は美香の名前を呼びながら、その人影に近づいた。
だが、それは美香ではなく着物姿の中年の女性だった。
こんな暗い山の中で、明かりもつけずに歩いている着物姿の女性を不審に思いつつも、高岡はその女性に声をかけた。
「すみません。この辺りで若い茶髪の女性を見かけませんでした?」
着物姿の女性は足を止めると、高岡に背を向けたまま指を差した。
それはあの呪いの家が建つ方向だった。
「まさか、あの家に行ったのか」
そう思いながら、高岡が着物姿の女性に目を向けると、着物の女性はいなくなっていた。
高岡は暗い山道を歩き、再び呪いの家に向かった。
玄関のドアは開いていた。家の中はさらに暗い。
高岡は美香の名を呼んだが返事はない。
その時、どこからかスマホの着信音が聞こえてきた。
聞き覚えのある着信音。それが美香のスマホだと、高岡は気づいた。
音を頼りに廊下を歩くと、L字を曲がった先のドアが開いているのに気付く。
その先は、地下室に続く真っ暗な階段。高岡は懐中電灯の明かりで足元を照らしながら、階段を下りていく。
下につき、地下室の扉の先から美香のスマホの着信音が聞こえてくる。
高岡は扉を少し開けて、美香の名前を呼んだが、返事は返ってこない。
息を吞み、高岡は暗い地下室に入っていく。
そして地下室の中、照らした懐中電灯の先で首を吊って死んでいる美香を見つける。
美香は密かに福島の事が好きだった。美香は白い服の女に憑りつかれ、福島を殺してしまった。導かれた呪いの家で、自らを罰した。
それを見た高岡は絶望し、床に崩れ落ちた。
床に置かれた懐中電灯の明かりが点滅する。
繰り返される明と暗の中、鎖の擦れる音と赤黒く汚れたか細い足が現れる。
恐怖で呼吸が荒くなる高岡。逃げようにも時すでに遅く、懐中電灯の明かりは完全に消えて闇だけが広がった。
しばらくして山荘付近には赤色回転灯をつけた数台のパトカーが止まり、室内からブルーシートに覆われた福島の遺体が運び出されていった。
優子は血塗れのまま、パトカーの後部座席で震える手でスマホを握っていた。一人の若い警察官が毛布を持ってパトカーに乗り込んでくると、優子を励ましながら膝に毛布をかけた。
優子はその警察官に知らせた。美香と高岡が森の中に行ってしまったことと、友人の一人が呪いの家で行方不明になったことを。
そして、呪いの家の場所を伝えた。
それを聞いた警察官は、二名の警察官を引き連れて呪いの家に向かった。
何も知らないその警察官たちは、地図と優子の説明を頼りに呪いの家に辿り着くと、その地下室で首を吊っている美香の遺体と高岡を見つけた。
高岡は真っ暗な地下室の中で立ち尽くし、捜索に来た警察官が声をかけても反応しなかった。
警察官の一人が持っていたライトで高岡を照らすと、高岡の目はぎょろぎょろと不規則に動き回り、赤ん坊のような声を漏らしながらよだれを垂らしていた。暗闇から呻き声が聞こえてくると、三名の警察官は急いで高岡と美香の遺体を担いで地下室から運び出した。
パトカーで下山した優子は警察署で事情聴取を受けたが、思い出すたびに泣き出してしまい、とても話せる状態ではなくなってしまった。心に深い傷を負い精神を病んでしまった。
高岡は事情聴取も無理と判断され、そのまま精神病院に運ばれた。そして、ベッドの上で瞬きもせずに天井を見つめたまま、言葉も発さず、食事は点滴のみ、ただ生きるだけの日々を過ごしている。
結局、野々村は行方不明のまま捜索は終了し、あの地下室は完全に封鎖された。封鎖された扉の向こうから、嘲笑うような笑い声が聞こえる。
映画はそこで暗転し、音楽とエンドロールとともにエンディングが流れ始めた。
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