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如月ユキ(映画のあと)
映画の本編は終わり、松田は大きく息を吐いた。時々ノイズで映像が乱れたものの、他に不審な点はなかった。
だが、隣で見ている加地の表情は硬い。
松田は映画を止めようとリモコンに手を伸ばした。
「待って。もう少し」
加地の視線はテレビに向いたまま。
エンドロールの途中で、またノイズが走り映像が乱れていく。まるでビデオテープのように砂嵐と映像が交差し、音楽がブツブツと途切れる。
すると、薄暗い地下室の中で立ち尽くす白いワンピースを着た女の後姿が映り、そのすぐ後には映画とまるで関係のない自動車事故の様子が映った。道路上で二台の車体がひどく潰れて煙が出ている。車内にいる複数人の死に顔が一瞬映り込む。
映像はすぐにまた乱れ、今度は薄暗い工場のような場所で首を吊っている男のシルエットが映り、画面は真っ暗になった。
松田はそれを見て困惑している。
「なんだ、今の?」
加地はわからないと首を横に振った。
次に現れた映像。それは誰かの部屋だった。ちょうど天井あたりから見下ろすように映している。ベッドにはぬいぐるみが複数置かれ、家具やカーテンからして女性の部屋のようだった。
映像は途切れながら、今度はドレッサーの前で髪をヘアゴムで結んでいる部屋着姿の若い女性が映る。
「これ盗撮じゃないのか?」
松田がそう呟いた。
ふと、その若い女性がカメラの方を向いた時、それが映画に出ていた『優子』役の女優だということに気づく。
映画の続きだと、松田は思った。
しかし、映像はノイズが混じるごとに切り替わるが、どれも日常的なものばかりで、映画との関連性はないように思えた。
彼女はしきりに部屋を見回すようになった。
ある場面では、誰かと電話で話をしている様子が映った。音声は途切れ途切れでよく聞こえないが、部屋で感じる気配と視線について相談しているようだった。
再びノイズで乱れ、今度は画面全体が白黒に変わった。
手前の方ではベッドで眠る彼女が映っている。眠れないのか、何度も寝返りを打っている。そのたびにスピーカーから布団が擦れる音がした。
ふと松田はあることに気づいた。映像の中の押入れがゆっくりと開いていくことに。その隙間から影が床に広がり、ベッドに寝ている彼女に向かってゆっくりと伸びていく。
すると、寝ていた彼女がだんだんと苦しそうにうなされていった。彼女はとっさに飛び起きると、息を切らしながら首元の汗を拭い部屋を出て行った。影はすでに消えていた。
映像がまた切り替わる。
ドレッサーの前で彼女が髪を梳かしている。
映像が乱れると、押入れの隙間から影がまたゆっくりと彼女の背後に伸びていった。
彼女は鏡を見ながらピタリと動きを止めた。
スピーカーから小さな呻き声が聞こえてくると、彼女は自身の首に手を当てて苦しみだした。まるで誰かに首を絞められているような、そんな苦しみ方だった。彼女は苦しみ悶えながらもどうにか逃れようとしたが叶わず、膝から崩れ落ちた。
彼女はピクリとも動かなくなり、その横にぼんやりと人影が現れる。その姿は、映画に出て来た白い服の女のように手足に枷をつけていたが、映画よりも体はガリガリに痩せ老婆のように見えた。
次の映像では、なぜか彼女は窓際で首を吊るされていた。
そして映像は乱れ、真っ暗になった。
また別の映像が始まった。女性の部屋のようだが、先ほどとは別の部屋だった。ドアが開き、部屋に入って来た女性の姿を見て、松田は驚いた。
その女性はユキだった。
「え、これってユキちゃんだよな」
「ああそうだ。最初はわからなかったけど映っているユキの部屋だし、顔を見て確信した」
「なんでユキちゃんが映っているんだ」
「こっちが聞きてぇよ」
映像はノイズで乱れるたび、数時間経った部屋の様子を映し出していた。
映像は女優の時と同じく、まるでユキのことを監視しているようだった。
だが、映画とまるで関係のないユキがなぜ映っているのか、二人にはまるで理解ができなかった。
映像の中で、ユキの様子がだんだんと変化していく。
一つ前の女優のように落ち着きがなくなり、しきりに部屋を見回すようになった。
部屋に入ってきた母親に、ユキが必死で何かを訴えている様子が映っている。その後、母親は部屋の中を歩き回り、何かを探しているようだった。
「何を探しているんだ?」
「これを映しているカメラじゃないか」
ユキの母親が天井を見上げた。
松田と加地はモニター越しにユキの母親と目が合う。
だが、そこにカメラがないのか、それとも気づかないのか、
「何もないわ。きっと気のせいよ」と言って部屋から出て行ってしまった。
ユキはベッドに腰かけながら、泣いているようだった。
突然、スマホの着信音が鳴り響き、ユキの体がびくりと弾んだ。スマホの画面を見たユキは、涙を拭いながら電話に出た。
ユキの声が聞こえてくる。
「大丈夫。ありがとう、加地君」
それは加地からの電話だった。
その時はまだ、ユキの声は穏やかであった。
映像がまたノイズで乱れ、真っ暗になった。
「どう思う?」
加地が松田にそう尋ねた。
「どう思うって、俺には何が何だかわからないよ。お前が撮影したわけじゃないんだろ?」
「当たり前だろ! それに、このDVDはレンタル屋のなんだ。重ねて撮るなんてできないだろ」
「一体、誰が何の目的で盗撮しているんだ」
「盗撮じゃないのかも」
「どういうことだよ」
「……呪いとか」
松田は呆れた顔をした。
「とにかく、もしも行方不明になっているなら警察に任せるしかない。行方不明じゃないとしても、こっちからの連絡が取れないなら、ユキちゃんの方からくれるのを待つしかない」
「まぁ、そうなんだけど。こんな映像見せられたら、居てもたってもいられなくて」
「それはわかるが……」
「一体、何なんだ。この映画」
そう言って、加地はテレビを消そうとリモコンに手を伸ばした。
すると、真っ暗だった画面が再びユキの部屋を映し出した。そこにはクローゼットに向かって立ち尽くしているユキの姿が映っているが、その体は震えているようだった。
それを見て戸惑う加地。
「こんな映像、前に見た時はなかったぞ」
映像の中のユキが、スマホで何処かへ電話を掛けた。ノイズ混じりに、
「加地君……助けて」と消え入りそうなユキの声が聞こえる。
それを見た加地は自身のスマホの着信履歴を調べるもユキからの着信はない。
映像はまたノイズが走り、ユキの背後に影が現れた。
その影は、ゆっくりとユキに近づいていく。
ユキはその気配に気づいているのか、何度も、何度も、「助けて」と呟きながら電話をかけるが繋がらず、部屋から逃げ出そうとしたがドアも開かなかった。
ドアを叩きながら、母親に助けを求めているユキの姿が映っている。
だが、また映像にノイズが走ると、ユキの背後に手足に枷をつけた白い服の老婆が映っている。開けてと叫びながら、何度も何度もドアを叩くユキ。
だが、声は届いていないようだった。
白い服の老婆が、ゆっくりとユキに近づいていく。
それを画面越しに見ている加地が、テレビに向かって叫ぶ。
「ユキ!逃げろ!!」
だが、その声は当然テレビの向こうには届かない。
そして、再び映像が乱れた後、ユキは天井を向いて苦しみながら首を掻きむしり、口から泡を吹いて床に倒れた。
テレビのスピーカーからは、鎖の擦れる音が聞こえてくる。
白い服の老婆は、ピクリとも動かなくなったユキを引きずりながらクローゼットの方へ歩き出した。
「ユキをどこに連れていく気だよ」
加地が怒りで震えながらそう呟いた。
すると、映像の中の白い服の老婆がピタリと足を止め、ゆっくりと振り返り天井を見上げた。
その瞬間、映像を見ている松田と加地と目が合った。
不気味に笑う白い服の老婆。
テレビ越しだというのに、その顔に二人は立ちすくむ。
白い服の老婆は、再びユキの体を引きずりながらクローゼットの方へ歩き、映像はノイズで乱れ最後には砂嵐となった。
二人はしばらく呆然と砂嵐を見ていた。
「ユキはどうなったんだ? つーか、これって現実なのか? あの婆さんは一体何なんだ? ユキは、ユキは無事なのか?」
「落ち着けよ」
「落ち着けるわけないだろ! 実際、ユキとは連絡取れないし、学校じゃ死んだって噂になってるし! ユキは一体どこに行ったんだよ!」
「どこにって……」
松田は言いかけた言葉を飲み込んだ。
映像を思い出した加地は呟く。
「クローゼット……かよ」
二人の脳裏には、教室で加地に絡んできた男子生徒の言葉を思い出していた。
“家の中から警察官が数人出てきて、大きな袋を運び出したらしいぜ”
静まり返る二人。
部屋には砂嵐の音が響いている。
「こんなのは嘘だ……」
加地はテレビを消そうとした。
その時だった。
ブツン!
そんな音とともに、テレビにどこかの部屋が映し出された。それはユキの部屋ではない。
映像には誰も映っていないが、青いカーテン、ベッドとソファがあり、部屋の隅には“かじりんご”と記された段ボール箱。その横に、大きなくまのぬいぐるみが座っている。
「嘘だろ……。これって」
映像を見ながら動揺している加地。
松田は加地の部屋を見回した。テレビに映っているのは、加地の部屋だった。
「今度は俺ってことかよ」
加地はそう呟いた後、テレビを見ながら自分の部屋の隅を見上げた。
「何のいたずらか知らねぇけど、見つけてぶっ壊してやる」
加地はそう意気込み部屋を映しているカメラを探したが、見つけることは出来なかった。
「カメラなんてないぞ。それとも、気づかないほど小型なのか?」
松田も調べてみたが、やはりそんなものはなかった。
「俺の部屋じゃないってことだよな。だって、カメラなんてついてないし」
そう言いながら、不安げな様子の加地。
テレビの映像は再びノイズで乱れたあと真っ暗になり停止した。
「もう見るのはやめよう……」
加地はDVDディスクをデッキから取り出すと、パッケージの中に入れた。
重い空気が二人を包んでいた。
翌日、二人はそれぞれの教室で担任教師から告げられた。
如月ユキが亡くなったと。
それを聞いた生徒たちの反応は様々だった。
噂通りだったと納得する者、驚きを隠せない者、ショックを受ける者、泣き崩れる者。ざわめく教室内で松田は愕然とし、加地はひどく落ち込んだ。
教師は通夜に参列する者を集い、仲が良かった数人の男女と松田と加地が希望した。
ユキの机の上には、いつの間にか使い古した花瓶と桜色の花が置かれた。
放課後、松田と加地を含めた希望者数名が、ユキの担任と副担任と共に通夜に参列することになった。通夜が行われる集会場はユキの自宅のそばにあり、一同は制服姿のまま電車に乗って向かったのだった。普段賑やかな友人らも口数が少なく傷心している様子だった。
電車を下車し、加地にとっては見慣れた改札を抜けると、空はすっかり暗くなりネオンと街灯が照らされた駅前は、一同の心とは裏腹に賑わいを見せていた。
集会場はそこから少し離れた住宅街の中にあった。駅から遠ざかるにつれて、辺りは暗くなり、人通りも少なくなっていく。
しばらく歩いていると、暗い夜道の先にぼんやりと明かりが見えた。
それは御霊燈の灯りだった。
集会場の外にはユキの名前が書かれた立て看板があり、中から喪服を着た人が神妙な顔をして出てくる。涙を拭う女性もいた。二人の教師が受付を済ませると、松田や加地、他の生徒たちが順々に集会場の中に入っていった。
会場の中は明るく、参列者と読経中の僧侶の向こうに真っ白な花束に囲まれた立派な祭壇が見えた。そして、そこには優しい笑顔で写るユキの遺影が飾られていた。
祭壇の前にはユキが眠っている棺があり、喪服姿の女性がもたれかかるように泣き崩れていた。その人がユキの母親だということは、加地には遠目でもわかった。
二人の教師を先頭に生徒たちはお焼香の列に並んだ。焼香台の横には、眼鏡をかけた喪服姿の五十代ぐらいの男性が座り、焼香を済ませた参列者に対し静かに頭を下げていた。
焼香を済ませた参列者は、そのまま集会場を後にした。
列に並ぶ松田の後ろで、加地は体を震わせていた。
前の参列者が終わると、松田の番がやってきた。参列経験がすでにあった松田は戸惑うこともなくお焼香を済ませ、ユキの冥福をただただ祈った。
そして、会場の隅で加地が終えるのを待った。
松田の後、加地の番がやって来た。焼香台の前で一礼し、たどたどしく抹香を香炉の炭の上に静かにくべると、手を合わせて目を閉じた。
焼香台の横にいた男性が加地に頭を下げた。
加地はゆっくりと目を開け、ユキの遺影をじっと見つめていた。
いつまでも去ろうとしない加地を、松田が連れて行こうとした。
すると、加地は突然焼香台の横を通り過ぎて、ユキの母親のところに近づいていった。
松田はそんな加地の様子を見ていた。
「あの……」
加地はユキの母親に声をかけた。
一度呼んだだけでは、母親は加地に気づいてくれなかった。加地は諦めず、何度か母親を呼びかけた。
すると、ユキの母親はようやく加地の方を向いた。
その顔に加地は少し驚いた。母親の顔はひどくやつれ、目は窪んで力がなかった。
そんな母親だったが、加地の顔を見てほんの少しだけ微笑んだ。
加地はお悔やみの言葉を伝えたあと、あることを母親に頼んだ。
それは、“最後にユキの顔を見たい”ということだった。
その言葉を聞いた母親は、何かを思い出したように怯えた表情を見せた。
「だめよ! 娘の顔は見せられない」
豹変する母親に加地は戸惑った。
「一目だけでも良いんです!」
加地は食い下がったが、母親の拒絶は凄まじかった。参列者の目が母親に集中した。
それでも加地は諦めない。
すると、ユキの母親は激昂し、加地の胸倉を掴んだ。
「娘の体は誰にも見せやしない。あの子は私だけのもの。私だけがあの子をちゃんと見送るの!」
加地は気迫に押され動揺していると、今度は加地の頬を微笑みながら手で撫でた。
「加地君、あなたは綺麗なお顔をしているわね。私の娘も、肌がとても綺麗だったでしょ。笑顔もとっても素敵で優しい良い子だった。」
ユキの母親の手が震えだし、爪が加地の顔の肌に食い込む。
痛みで顔が歪む加地。
「早く帰ってちょうだい。でないと、私はこの爪であなたの顔をめちゃめちゃにしてしまいそう」
周囲にいた親戚たちが母親を加地から引き離し、加地は関係者の男性に腕を掴まれて外に連れ出されていった。
松田は加地を追いかけ、集会場の出口に向かった。
中からは母親の咽び泣く声が聞こえていた。
集会場の前には、参列を終えた一同が集まっていた。その中に加地の姿もあり、教師に叱られていた。
松田もそれに合流しようとした時、どこからか男性の話し声が聞こえてきた。
「ユキちゃん、いい子だったのに可哀そうだな。母親も随分やつれちまって」
「そうだな。あんな死に方されちゃ、母親もショックがでかいだろうな」
「死に方って、自殺じゃないのか?」
声を辿っていくと、建物の裏手で煙草を吸っている喪服姿の男性二人が立っていた。
気になった松田は、彼らに気づかれないように聞き耳を立てた。
「どうも違うらしい。俺の同期が現場に立ち会ってさ、その時のことを教えてくれたんだよ。通報が来てあの家に着いた時、母親はひどく動揺していて話が通じなかったらしい。とりあえずとユキちゃんの部屋に案内してもらって、そこに入った瞬間、ひどい悪臭が漂ってきたそうだ。母親が半開きになったクローゼットを指差して、中を確認すると置かれた荷物と壁との僅かな隙間に膝を抱えるように小さく収まっているユキちゃんを見つけた。すでに顔や手足が、腐敗が始まっていたそうだ。なのに、母親は悪臭が漂うまで気づかなかったと」
「そんなこと普通あり得るのか?」
「その数日前、母親が署に来て捜索願を出したんだ。娘が行方不明になったって。それが家の、それもクローゼットの中から遺体で見つかるんだ。不思議な話だろ。それでユキちゃんの遺体を運びだした時、その場にいた連中たちは絶句したそうだ」
その喪服の男性は、それからユキの最後の姿を話し始めた。
彼女の目はカッと見開いて、白目は真っ赤に充血していた。口は断末魔をあげたように大きく開き、肌は腐敗が始まっていた。首には爪で引っ搔いたような傷跡が無数に残っていて服も床も赤黒く染まっていた。こんな遺体を見るのは初めてだと。
死因は窒息死。だが、絞められたような跡は見つからなかった。彼女の遺体を搬送した後、彼女の見開いた目や口を閉じようとしたが、どうにも閉じることが出来なかった。それを知った母親は、娘を不憫に思いひどく泣き崩れたそうだ。
松田はその話を聞き、母親が遺体との対面を頑なに拒んだ理由を理解した。
「何か悪いものでも憑いていたんじゃないかって。現場にいた奴らは言っていた」
二人の男性はポケットから取り出した吸い殻入れに煙草を入れると、松田の横を通り過ぎて集会場の中に入って行った。
そして松田が加地らと合流すると、一同は駅で解散となった。
別れ際、松田は集会場で聞いた話を伝えようか迷ったがやめた。これ以上追い込むようなことはしたくなかった。
「また明日な」
そう挨拶をすると、加地はただ「おう」とだけ返事をして別のホームに下りていった。
それぞれが、それぞれの思いを胸に家路についた。
家に着いた松田が玄関を開けて中に入ろうとすると、リビングのドアが勢いよく開いて小さな袋を持った茜が走ってきた。そして、中に入ろうとする松田を外に押し出した。
「何をするんだ」
戸惑う松田に、茜は袋の中の塩を振りかけた。
「お清め! お兄、お葬式に行って来たんでしょ。お母さんから聞いた。ちゃんとお清めしないと、お兄に何か憑いたら大変」
「そうか。助かるよ」
茜が行うお清めはかなり雑で、松田は全身塩まみれになった。
「早く着替えて来てよね。お父さん、もう帰って来てるよ」
そう言って、茜は一階のリビングへ戻って行った。
松田は体についた塩を払って玄関を上がると、そのまま二階へ向かった。
自室で着替えを済ませ、松田はリビングに向かった。
自室で着替えを済ませた松田がリビングに入ると、美味そうな料理がテーブルに並べられ、家族も勢ぞろいしていた。家族団欒の食事が始まった。
食事中、知りたがりの母親と茜は、松田に葬儀のことを尋ねた。誰が亡くなったのか。松田は「同級生の女子」と答えた。
「若いのに可哀そうね」
と言いながら質問が増えていった。
どんな子だったのか。どうして亡くなったのか。病死か事故か。親御さんの様子。どんな祭壇だったか。
松田が困惑していると、父親の「不謹慎だ」の一言で、母親も茜もその口を閉じた。
食事が終わると、松田は茜から逃げるようにそそくさと二階の自室に戻った。
部屋に戻った松田は加地を心配してメールを送ってみたが返事がなかった。
手元にスマホを置きながら、松田は数学の予習を始めた。
しばらくすると茜が部屋に戻ってきたようで、壁の向こうから騒がしいテレビの音と茜の笑い声が聞こえてくるようになった。
すっかり集中力が解けた松田は勉強を止め、スマホを手にベッドに腰かけた。
ふと通夜の集会場で聞いたことや、あの映画の事を思い出し、「山荘の惨劇」を検索した松田だが、有益な情報を見つける前に眠ってしまった。
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