夏の終わり編 6 リーザの滅びの歌

1/1
前へ
/239ページ
次へ

夏の終わり編 6 リーザの滅びの歌

 浮き出てきたアダマスがリーザに言う。  「歌え!リーザ、歌を(うた)え。滅びの歌を歌え!知っているんだろう?」 「その歌は、(うた)っていいのかしら。その歌は身を守る時だけ使えって言われました」 「今が(うた)う時だ。今しか歌うタイミングがないだろう。強力じゃなくていい。魔法陣が壊れるくらいの威力でいいんだ」  それでリーザが(うた)う。    それは慈愛の響きだった。  滅びを促し、崩れて行く事を、優しく受け入れさせる響きだった。  魔法陣がリーザに触れる前に、歌声によってどんどん崩れて、地面に落ちた。  落ちて、地面に吸われて行く。  アイダが叫ぶ。  「魔歌を使えるの! 聞いてないわ」  アダマスが言う。  「俺だって、さっき知ったんだ。ついさっきまで誰も知らなかったのさ」  凛々しいアダマスを見て、アイダが言う。  「アダマス様。お会いできて嬉しいですわ。私の使役になって! なんでそんな女といるの。確かに魔歌は使えるのかもしれない。でもそれだけじゃないの? 魔力も少ない。使役妖精もろくに持っていない。何処が良いの?ねぇ、私の使役妖精になって」    アダマスが言う。  「嫌だよ。お前なんか」  「どうして?私のほうが、リーザより美しいし、魔法の力も大きいし。魔法も沢山使いこなせる。首席で魔法学校を卒業した私のほうが、賢いと思う。リーザは杖さえ持っていないじゃない?」  アダマスが白けた顔で言う。  「まぁ確かにな。リーザは間抜けで、杖さえ持っていないよな」  アイダが言う。  「だったら、リーザから名を返して貰って、私にアダマス様の名をくださいな」  アダマスが言う。  「たとえ、リーザに名を返してもらっても、アイダに俺の名をやるのは無理だな。絶対嫌だ」  アイダが聞く。  「どうして。すべてにおいて私のほうがリーザより上でしょう?今はたまたま魔歌に負けたけど。だったら今度は歌を(うた)わせる隙など無いくらい、素早く攻撃をするわ」  アイダが杖を構えた。  そして、呪文を唱える。  その時だった。  アイダは何か冷たいモノが、アイダの首に押し当たっているのを感じた。  アイダはその何かを見た。  アイダの首にはナイフが当てられていた。  ナイフの先にはアダマスがいた。  アダマスは目にも留まらぬ速さで、アイダの背中を獲ったのだ。  「リーザを、アイダの好きにさせない。リーザへ危害を加えるなら、俺が相手だ」    アイダが言う。  「リーザに使役されているから、逆らえないだけでしょう?私がリーザから、アダマス様を開放して差し上げるわ」  アダマスが言う。  「そう言うことじゃないんだ」  「じゃぁ、どう言うことなの?」    アダマスは照れながら言う。  「俺はリーザにべた惚れなんだ」  「嘘よ。信じられない。リーザなんか! どこがいいの?」  「嘘じゃないよ。リーザの全てが好きなんだ。俺のことは諦めてくれ」  そう言うと、アダマスはアイダの唇にキスをした。  キスをされて、アイダは戦う気力を失った。  アダマスが言う。  「悪いが、アイダの魂の一部を、ほんの少し頂いた。だからしばらく気力がなくなって、動くのも大変になると思う。しばらく気力をなくして、大人しくしていてくれ」  それからアダマスは、付近にいるはずのリーザを見た。  しかしリーザはいなかった。  
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加