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夏の終わり編 6 リーザの滅びの歌
浮き出てきたアダマスがリーザに言う。
「歌え!リーザ、歌を謡え。滅びの歌を歌え!知っているんだろう?」
「その歌は、謡っていいのかしら。その歌は身を守る時だけ使えって言われました」
「今が謡う時だ。今しか歌うタイミングがないだろう。強力じゃなくていい。魔法陣が壊れるくらいの威力でいいんだ」
それでリーザが謡う。
それは慈愛の響きだった。
滅びを促し、崩れて行く事を、優しく受け入れさせる響きだった。
魔法陣がリーザに触れる前に、歌声によってどんどん崩れて、地面に落ちた。
落ちて、地面に吸われて行く。
アイダが叫ぶ。
「魔歌を使えるの! 聞いてないわ」
アダマスが言う。
「俺だって、さっき知ったんだ。ついさっきまで誰も知らなかったのさ」
凛々しいアダマスを見て、アイダが言う。
「アダマス様。お会いできて嬉しいですわ。私の使役になって! なんでそんな女といるの。確かに魔歌は使えるのかもしれない。でもそれだけじゃないの? 魔力も少ない。使役妖精もろくに持っていない。何処が良いの?ねぇ、私の使役妖精になって」
アダマスが言う。
「嫌だよ。お前なんか」
「どうして?私のほうが、リーザより美しいし、魔法の力も大きいし。魔法も沢山使いこなせる。首席で魔法学校を卒業した私のほうが、賢いと思う。リーザは杖さえ持っていないじゃない?」
アダマスが白けた顔で言う。
「まぁ確かにな。リーザは間抜けで、杖さえ持っていないよな」
アイダが言う。
「だったら、リーザから名を返して貰って、私にアダマス様の名をくださいな」
アダマスが言う。
「たとえ、リーザに名を返してもらっても、アイダに俺の名をやるのは無理だな。絶対嫌だ」
アイダが聞く。
「どうして。すべてにおいて私のほうがリーザより上でしょう?今はたまたま魔歌に負けたけど。だったら今度は歌を謡わせる隙など無いくらい、素早く攻撃をするわ」
アイダが杖を構えた。
そして、呪文を唱える。
その時だった。
アイダは何か冷たいモノが、アイダの首に押し当たっているのを感じた。
アイダはその何かを見た。
アイダの首にはナイフが当てられていた。
ナイフの先にはアダマスがいた。
アダマスは目にも留まらぬ速さで、アイダの背中を獲ったのだ。
「リーザを、アイダの好きにさせない。リーザへ危害を加えるなら、俺が相手だ」
アイダが言う。
「リーザに使役されているから、逆らえないだけでしょう?私がリーザから、アダマス様を開放して差し上げるわ」
アダマスが言う。
「そう言うことじゃないんだ」
「じゃぁ、どう言うことなの?」
アダマスは照れながら言う。
「俺はリーザにべた惚れなんだ」
「嘘よ。信じられない。リーザなんか! どこがいいの?」
「嘘じゃないよ。リーザの全てが好きなんだ。俺のことは諦めてくれ」
そう言うと、アダマスはアイダの唇にキスをした。
キスをされて、アイダは戦う気力を失った。
アダマスが言う。
「悪いが、アイダの魂の一部を、ほんの少し頂いた。だからしばらく気力がなくなって、動くのも大変になると思う。しばらく気力をなくして、大人しくしていてくれ」
それからアダマスは、付近にいるはずのリーザを見た。
しかしリーザはいなかった。
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