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リーザの発見と竜の子守歌編 5 リーザの中身は草原
大先生の屋敷には、魔女見習いが1人いた。
カンゼと言う、14歳の少女だった。
カンゼに案内されて、大先生の寝室に行く。
大先生は、優しそうな人だった。
ベッドに横たわった大先生が言う。
「ああ、カンドルかい? 悪いね。わざわざ見舞いに来てもらって」
大先生は既に300歳を超えていいるのだが、見た目は70歳くらいだった。
大先生が言う。
「これでも、もうだいぶ良くなったんだ」
先生が言う。
「でも大事にしてくださいな。これを持って来ました」
大先生が渡された包を開ける。
「魂の薬だね。カンドルは魂の薬を作っているんだね。私はもうここ50年ばかり、魂の薬を作るのは、止めてしまったよ。なんせ年だからね」
カンドルが言う。
「また、私が作って持ってきますよ。私には弟子が出来たんです。リーザといいます。リーザと魂の薬を作っているんです」
大先生がリーザを見た。
「ほう、この子かい? カンドルの孫と言うのは?」
「ええ、まぁ。でも孫とは思っていません。単なる弟子ですよ」
大先生が困り顔で言う。
「カンドル、あんたって子は。本当に強情だね。そろそろ娘を許してやったら良いのに」
カンドルが言う。
「別に、もう怒っているわけでもないですよ。もう死んでしまったのに、許すも許さないも、ありゃしません」
「だったら……」
カンドルの表情は浮かない。
それで大先生は、それ以上言うのを止めた。
大先生は話を切り替えた。
「まぁ、いい。さぁリーザ。こっちに来て、顔を見せておくれ」
リーザが大先生の側に寄る。
大先生が、リーザに言う。
「両手を私に差し出してごらん」
リーザが大先生に向かって、前ならえした。
先生がそれを掴んだ。
お互いに、前ならえして、手を掴み合う。
大先生がリーザに言う。
「目をつむるんだ」
リーザが目を瞑った。
すると、リーザは、吹抜っける風を感じた。
リーザが身震いした。
大先生が言う。
「感じたかい?」
「ええ、感じました」
大先生が言う。
「さぁ、瞑った目の前を、よく見てご覧」
リーザは目を瞑ったまま、目の前をみる。
するとそこに景色が広がった。
大草原だった。
何もない広い、広大な草原だった。
腰高の草しか生えていない。
地平線が広がり。
雲1つない。
高い高い、広い広い空が、リーザの頭上に広がっている。
草原の若草色と、頭の上の空の色、太陽のオレンジ色。
3つの色が、リーザの目に飛び込んできた。
大先生が言う。
「あ、これは。リーザは、根っからの歌唄いかい……。こんなに中身が空っぽじゃぁ。相当な歌い手だね。しかし、ここまで中身が空っぽじゃ。普通の魔法を使うのが、とても難しいだろう?」
リーザが不思議に思って、大先生に尋ねる。
「なんで分かるんですか?」
「今見ている景色は、リーザの中身だからだよ」
「私の中身?」
「そうだ。中身だ。リーザがこの景色を、見たい時に見られるように、これから私が魔法で治療するよ」
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