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住宅街は入り組んでいて、彼の家は狭い路地をいくつか抜けた先にある。
大きい青い屋根の家では、柴犬があくびをしていて、その隣の家ではビニールプールが置かれている。
無関係だったはずの景色に、いつしか愛着が湧いていた。
次第に奏翔くんの住む赤い屋根の家が近づいてくる。
思わず鼓動が早まり、蛍光ペンで汚れた両手の汗をスカートで拭いた。
本日8月11日は、奏翔くんの誕生日。
高校最後の誕生日なのだから、今日くらい勉強は休んだほうがいいと話したのだが、「先生と一緒に勉強したい」と言って聞かなかった。
なんて勤勉なのだろうか。
そんな彼に、どうしても何かしてあげたかった私は、2週間前から彼へのプレゼントを考えていた。
シンプルに何か渡すだけではつまらない。
私が得意なことで、彼を喜ばせるには……
そう、手品!
大学で手品サークルに入っている私は、彼に手品でサプライズをすることに決めたのだ。
今日を迎えるまで、学校でも家でも手品の練習を繰り返し、試行錯誤を重ねた。
文化祭で仲間と手品を披露したことはあったものの、一人で誰かにサプライズをしたことはなかった。
自ら進んで誰かを笑顔にするために一生懸命準備をする。
そのこと自体が、私にとって革命的な出来事だった。
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