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「当たり前でしょ。確かにお金を少し家から持ち出したけど、それは食費とか設備に当ててもらうためだったし……。ごめんなさい。バイト代じゃ足りなくて、お母さんのお財布からちょっとカンパしてもらった」
「やっぱりね……。変だと思ったのよ」
「ごめんなさい」
「通帳、見せなさい」
父が驚くほど厳しい表情で言った。
「え? でも、短期バイトとかで貯めたお金だし」
「いいから」
姉の預金はほとんどゼロに近かった。
「美弥が自分のために使ったというなら、何も言うことはない」
「でしょ?」
話は終わりだと通帳に伸ばした手を父が掴んだ。
「美弥が必死に働いたお金を奪われたのなら、父さんは許すことが出来ない」
「ーーお父さん、奪われてなんか……」
「本当に?」
姉の目から溢れ出た涙は、後悔からなのか、理解してもらえない苦しさからなのか、私には分からなかった。
「もう、関わるのはよしなさい。いいね」
父は一度かたく姉の手を握り、それから離した。姉は何も言わずに泣いていた。
それから数日後に、姉は置き手紙を残して失踪した。
「私らしくいられる場所へ行きます……って、何よそれ!」
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