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三回目
真っ白な天井が俺を安堵させる唯一の要素。再びベッドの上で目覚めた俺は、時刻を確認することなくテレビのリモコンを手に取る。
それの電源ボタンを押すと部屋にニュースが流れる。試しに、全ての数字ボタンを押してみた。
『○○県○○市で横断歩道を渡っていた男性をトラックで跳ね……』
『一家惨殺事件の真相が解明されぬまま、今日で一年。この事件では犯人が子供二人を殺害した後……』
『速報です。今日午前三時頃、○県○市のマンションで火災が発生し、これまでに……』
世間は夢より物騒だ。どのチャンネルも残酷な事故や事件の情報しか流れない。試しに最後の数字ボタンを押す。
『消防隊は引き続き消火活動に……』
これは先程の火災のニュースだな。駄目だ、俺を元気付けるバラエティ番組やお笑い番組は放送されていない。早朝だから当たり前かもしれないが、全部がニュースというのは何処かおかしい。
三度目となると流石に理解した。部屋には居たくないので、外出するか。
アパートを飛び出して、近所の並木道を歩く。青々とした木が炎天下で揺れる様子は、普段と大差なかった。
すると、ぽとりと目の前に何かが落ちる。それは仰向けにひっくり返った蝉の死骸だった。
「うげえ、虫苦手なんだがー?」
俺のその反応は、スターターピストルと同等の役割だった。瞬きをする間に、蝉の死骸が二倍、三倍と増加してゆく。否、落ちてくる。
ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと
「いやあああ!?」
蝉の重さを感じさせる妙な落下音に、べきっ、パリパリと死骸を踏み潰した際の不愉快さに、鳥肌が立って仕方が無い。俺はやがて、蝉の山に溺れた。下手すると口内にまで死骸が入ってきそうだ。
そんな中あいつの声が聞こえてくる。
『準備完了』
俺はピエロの姿を探そうとしたが、視界に入るのは蝉が作り上げた一面の闇だけだった。
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