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「君に伝わるまで何度だって言う。僕は君が好きだ。僕たちはきっと、出会うために生まれてきたんだよ」
「……随分と情熱的なことを言うわね。すべての出会いは偶然よ。運命なんてこの世にないわ」
赤くなりそうな顔を隠すために、ルツはアルスから視線を逸らす。それにルツが運命論を信じていないのは本当のことだ。
彼女のつれない反応に、けれどアルスは「そうかもね」と微笑んだ。
「なら僕は、君と出会えたこの偶然を喜ぶよ。出会うはずのなかった僕たちが今こうして一緒にいられるのは、全然当たり前のことじゃない。奇跡だ。君と過ごせる一日一日を、僕は大事に生きていく」
ああ言えばこう言う。ルツはアルスへの説得を諦めた。
どれだけ反論しても、彼にかかればすべてのことがルツへの愛に変わってしまう。それがあまりにおかしくて、ルツはつい笑ってしまった。
「そうね。もしかしたら、本当に奇跡なのかもしれないわね」
二百年前に生まれたルツ。もしも普通の人間として生まれていたら、この時代に生まれたアルスとは間違いなく出会えていなかっただろう。
それなのに、今こうして一緒にいる。そしてたぶん、これからも。
「愛してるよ、ルツ。これから先もずっと、僕と一緒に生きて欲しい」
変わらない言葉。移ろいやすいこの世界で、決して変わることのなかった、アルスの愛。
ルツは笑った。心臓が跳ねるように脈打つ。それは紛れもない命の鼓動。本物の心臓。真実人間になったルツィオーネ。
「ええ、アルス。私もあなたを愛しているわ」
もうルツは不老不死ではない。人形でもない。これからは普通の人間として生きていく。ルツにとってはまさに未知の世界だ。
でもルツにはアルスがいる。アルスがルツを導いていく。知らなかった世界を教えてくれる。
手を繋いだ。この手が放されることは、もう二度とないだろう。
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