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……気がつくと、目の前には目を閉じたアルスがいた。唇に触れているのは彼の唇で、眩しい光はちょうど触れ合っている唇の隙間から零れ落ちているようだった。
至近距離にいるアルスがそっと目を開ける。そしてルツが目覚めたのに気づいて嬉しそうに微笑んだ。
「ルツ」
「アルス……?」
「錬成は成功したよ。僕も君も無事で、世界も無事だ」
すぐにはアルスの言葉を理解できなかった。けれど数秒かけてじわじわとそれが頭の芯に届き、理解できた瞬間には落涙していた。
「……本当に?」
「本当だよ。ありがとう、ルツ。きっと父さんも母さんも、この村のみんなも、ルツの頑張りを誇りに思ってくれていると思う」
立ち並ぶ墓標。その下で眠っている、かつては救うことができなかった村人たち。
涙で濡れたルツの頬をアルスの両手が優しく包んだ。向けられる蒼天の眼差しに、ルツの鼓動が高鳴る。ドクドクと、まるで本物の心臓であるかのように高らかに脈打つ。そう、まるで、本物の──。
「…………!」
思わず胸を押さえた。あまりのことにルツは絶句する。
心臓が、ある。機械仕掛けなんかじゃない、本物の心臓が。
耳の奥で、ルツィオーネ、と呼ぶ声が反響した。
『いつか本当にお前を愛する人が現れて、お前もその人を愛するようになったとき、お前は真実人間になれるだろう』
記憶の彼方から響いてくる、生みの親の声。愛。まさか。
「良かった、その感じだと僕は上手くやれたみたいだね」
「アルス、あなたは……」
間違いない。他でもないアルスがルツを人間に変えたのだ。ルツ本人ですら分からなかった方法で、その心臓を人のものに変えて。
「ねえルツ、好きだよ。愛してる」
心臓が飛び跳ねる。以前には感じなかった感情が、血管を通って全身へと駆け抜ける。
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