04 振り上げた拳

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「壱ーーー!  これ美味しいよー」 ピノが、そう言って壱の口にクレープを向ける。 「壱さんには、かなり懐いているようですね……」 「そうなのかな?」 壱は自分ではわからなかった。 しかし、ピノからの好意は嫌ではなかった。 「ピノちゃん」 「なぁに?奈留先生」 ピノは、首を傾げて奈留の方を見る。 「壱さんのことは好き?」 「うん!だいだいだいだいだいだいいだいだーいすき!」 「今までのご主人さまよりも?」 奈留は、少しカマをかけた。 ピノの体の傷、痣のことが気になるからだ。 奈留は、孤児院で努めている。 祖父の代から続く孤児院。 小さいころからいろんな子どもを見てきた。 だからわかる。 ピノが今までどんな扱いを受けてきたか…… それは、生易しい虐待程度ではなかった。 「今までのご主人さまは……  ピノに痛いことばっかりでご飯も硬いパンばかり……  でも、壱は……壱はピノを傷つけない。  美味しいご飯をくれる、だから好き」 ピノの悲しい過去を少し知った。 壱は、どうすればいいかわからない。 「ピノちゃん、私のところの孤児院に遊びにこない?」 すると壱が驚く。 「え?ピノを孤児院に送ったりはしないよ?」 壱のその声には戸惑いがあった。 しかし、奈留は小さくうなずいてから答える。 「あ、そうじゃないです。  壱さんが、仕事のある日はピノちゃんが家でひとりぼっちになります。  だから、そのひとりぼっちの世界を無くすために孤児院に来てほしいのです。  もちろん、仕事が終わったら迎えに来てほしいです」 「でも、孤児院は託児所じゃないんじゃ……」 「この辺は、私の権限でどうにかします」 「そっか……  じゃ、甘えようかな」 「遊びに来るってなに?  ピノ捨てられるの?」 ピノの目に涙が浮かぶ。 すると奈留が、小さく笑う。 「遊びに来るの。  ピノちゃんが、寂しくないように……  あと学校にも通わないと……」 奈留の言葉にピノは理解できないでいる。 「学校ってピノ勉強していいの?」 ピノの目が不安になる。 「うん、ピノちゃんにも学ぶ権利はあるんだよ」 「本当に?」 ピノの目が輝く。 「本当だよ」 奈留の言葉に小さくうなずいた。 「わーい」 ピノが、嬉しそうに笑った。
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