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 ノブタの良いところは優しさなどでは決してない。  彼の凄まじいところは、ドコエモンがやってきてもあの程度の堕落で済んでいるという。精神の頑強さである。  きっと彼はどこまでいっても彼のまま。成功しても失敗しても彼のまま。  それは驚嘆すべく能力であろうと常々思っているのだが、この意見に関しても他で聞いた事がないのできっと私だけの感想なのだろう。  確かにノブタは駄目な人間である。私は彼の行動をみて優しいなどとは毛ほども思わない。よしんば彼が優しい人間だったとして、そんなものでは打ち消せない程の駄目っぷりを隠そうともしないところが彼の本当に駄目なところであると、そう思う。  しかしながら、彼は駄目なヤツではあるが、だ。  彼を嘲笑う人間は、余程に誇り高いのだろうか?  だってそうだろう。  私がミライの道具などを手にしたら、きっともっと、とんでもない事をしでかすに決まっている。とても放送出来ないような、この世の地獄みたいな事を面白半分で起こして、その上でドコエモンに泣きつくだろう。  だってあれほど便利な道具なのだ。即刻で大金持ちになれるのだ。直ぐにでも四番でピッチャーを張れるのだ。シズエなんて本当は好き勝手に出来るはずなのだ。  そんなトンデモを手にしておいて、ノブタのする事といったら友人への意趣返し。  バカ!バカ!そんな訳ないだろう。それで済むはずがない。その程度で収まるはずがないのだ。  何とかしておくれよぉ。  助けておくれよぉ。  どうにか、どうにか、どうにか……  元に戻しておくれよ。  やりなおしさせろよ。  できるんだろ?  その為に、オマエは来たんだろうが。  それで当然だ、それが当たり前だ。  そして、ノブタがそうならないのは優しいからではない。ちょっと良い気分になれれば満足という、果てなき怠惰の賜でしかないのだから。  これまで私が出会った人間のうち、ノブタを指差して笑っていいのは私の妹だけである。  妹ならば、ドコエモンがやってきても怠惰なままでいられる。『シズエと結婚させてあげる』と言われても、『シズエに悪い』と言える人間。テスト前に差し出された『記憶パン』を、『そんなに食べたくない』と断れる人間。  私には無理だろう。他の誰にも無理だろう。  人は欲張りで、どうしようもなく馬鹿で、それでいて自分は賢いなどと自意識ばかり強くて。  緊急事態でも正気でいられるなんて、正気でない勘違いをしている。
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