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「うん、これは死んだな」  打算をしてここに至った。  皮算用をしてここに至った。  ミライジンの間を抜けるよりはなどと、最悪A派の恋愛感情を利用すればなどと、直ぐに街を出なかった結末がコレだ。 「しょうがない」  それがそうなら、しょうがない。  なるようになって物語は冒頭に戻るのだ。ふらっと現れたぽっと出のゲストは、リセット前に置き去りにされたまま。野に返された恐竜ビースケのその後など、誰も気に留めない。  私は物語から置き去りにされた。それは受け入れる以外にやる瀬のない、純然たる事実。  放り出されたなら、私は私で私の物語を閉じる外ないのだから。  だから、私はFを閉じた。  悔いがあるとすれば、最後に読んだのがSF短編だった事くらいか。 「なんでそんなにおちついてるの……?」 「私はビースケじゃない。ドコエモンはアフターケアはしてくれない。それを、知ってるから」 「きっとしぬよ?」 「死なない人間なんかいるもんか。スペリオール・アルティメイタマン・デラックスすら、最後は死んでしまったぞ」 「もうたすからないんだよ?」 「なんだ、私とじゃご不満か」 「………………」 「そんな事ないとか言えよ」  向こうから迫ってくる半透明の何かを仰ぎ見る。  切り立っている部分は既にこの街の端まで覆われた場所なのだろう。ミライジン的には空にも境界があるらしい。彼らの常識には空中都市でもあるのか、空の境界は真っ平らである。  アレはダメだ。アレは、街に残る人間を殺す意図でされた願いだ。やはりそうなのだ。  脱出するための『ミライのタマゴ』は消滅した。持ち主を守るための『ミライジン』は怯えもせず、寧ろより攻撃性を高めている。  そして、やはりお願いには優先順位がある。錯誤ではないと思う。本能的なものなのか、統括する管理者がいるのか。いずれにしろ『ミライジン』には個を越えた種としてのルールがある。わざわざこの街に限定してタマゴを拡めた理由も、多分、いや間違いなくあるのだ。  だったら観察してるやつがいる。  さてどうなるかなんて、遠巻きに眺めてるやつがいる。 「逃げよう!」  A派が私の手を握り、少しでも逃げようと引っ張る。 「間に合わない」 「諦めるな!」 「話を聞け」 「走って!ホラ!」 「はぁ、まぁいいけど……いいのか?」 「はぁ!?」  理解出来ないような顔でこちらを振り向くA派。  その唇に、自分のを重ねた。  もう少しスマートに出来ると思ったが、少し勢いをつけ過ぎた。キスはしたものの鼻が思い切り頬骨に当たり、前歯がカチリと音を立てた。ちょっと洒落にならないくらい痛かったので、唇の感触は正直よく分からない。 「……っぅ……う、うん、まあこんなもんか」  驚きが先に立ったのだろう。いっそ怪訝な顔でこちらをみているA派。いや、違うんだよ、別に錯乱している訳じゃない。  私は多分、生まれて初めて幸福と方正が一致しているんだ。 「きっと死ぬ、間に合わない。今際の際が、惨めな命乞いでいいのかと聞いている」  ソレを観察しているヤツが、いるかもしれないのだ。  多分多分と、不確定なばかりだが。  コレは、人類のための行いなのだから。 「せめてイチャついて死んでやろうっての?君が?僕と?」 「ごめん被りたいところだが妥協してやる。今のが私のファーストキスだ。ありがたく受け取れ」 「ねぇ、しんじゃうんだよ?」 「死ぬってば、もーうるさいなぁ。ポンペイを知らないのか?」  最低の私が、瀬戸際で矜持をみせる事。  観測者共を、こんなやつですらと、驚かせてやるのだ。  人類侮りがたしと、観てるヤツに思わせる事。 「死体が残るタイプのヤツだった場合に、オマエと私は『逃げ遅れたマヌケ』か?それとも『愛を貫いた恋人』か?どっちで誌面を飾るんだよ」  私が、F作品が大好きだと理解らせるのだ。  観測者共に、いったい何読んでたんだと、注目させるのだ。  F作品を、重要参考書類へと押し上げるのだ。 「教科書にも載るぞ。オマエと私が美談として後世に残るぞ。恋人として、だ」  幸福と方正の一致。  Fの布教と、ミライジンへの威嚇。  狂信者は果たして、私であった。 「ポンペイのは両方男なんだけど」 「…………あ、愛に性別は関係ない。この差別主義者め」  ここにきてもまだ覚悟が極まらないのか。がくりと肩を落とすA派を引き起こす。 「どーんされても平気な子がお好みなんだろ?添い遂げてみせるのがA派の心意気じゃないのか?」  笑え、嗤え。  スコシのフシギと、ニヒルを込めろ。 「だったら私に、恋してみせろ」  Aは最後まで、Fに敬意を払っていたと聞くぞ。 「踊るぞ。さあごろうじろって、嘲り返してやるんだ、私が、私達で。ほら、ほら…」  おどりましょう?おどりましょう?  節なんて知らない。音楽なんてない。  手を取り合って。愉しく、ただ愉しく。 「お……?」  ふとみれば、傍らにいつの間にか立っていたのは、腰の高さ程のミライジン。  なんだい?君も観測者に抗ってみせるのか。  ではトモダチだ。さあ手をつなごう。  きっと君は未来の卵。私のポケットに、一緒に旅するために、遊び続けるために。  私が、いつか大人になるまでは。 「あはははは……」  呆けてしまったように踊る私。  茫然自失と、されるがままのA派。  困ったような声をあげて、しょうがないなんて顔をしたミライジン。 「あははははははは……」  おててつないで、むじゃきにおどって。 「あはははははははははははは……」  もうのまれる、せいほう、さんにんで、こうふく、だきあって、エフ、キス、ヒト、うれっ…
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