1日目。

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 時刻は24時を回る。 電気を消してしまうのは大の男でも怖いから、豆電球ばかりは点けて仄かに室内を照らしている。 田島は相変わらず起きる気配が無く、岩屋は座布団を枕に爆睡。 統也は何度も寝返りを打ち、溜息を零す。 (眠れない、眠りたくない……)  目覚められないのでは? と言う恐怖心が無いと言えば嘘になるが、理由は他にもある。 (母サン……)  岩屋には言っていないが、1階リビングには母親の遺体がある。 それを思うと睡魔が訪れない。 (俺が殺した……)  目を瞑れば、死者となった母親が険しい顔つきで襲いかかって来る様が思い出される。 母親は統也の存在を忘れ、目の前に現れた鮮度の良い獲物としか見ていなかったのだ。 それがショックで堪らない。それを理由に強行に及んだ自らの暴挙も許す事が出来ない。 (俺は どうかしてる…… 母サンを殺しておきながら、こうして なに食わぬ顔をして1つ屋根の下にいる。 岩屋サンにバレないように隠して、明日にはこの家を出て行こうとしてる。 信じられない……人間性ってものが、こんなにも欠如していたなんて……)  胸が痛む。ジワジワと目の縁に涙が溜まる。自分の醜さに嫌悪してやまない。 (誰か、助けてくれ……)  縋る思いでスマホに手を伸ばすも、相変わらず誰からの連絡も入っていない。 父親がどうしているのか気になるが、今更、会わせる顔が無い。 ただ、どうか無事であれと心から願う。 (生存者は、どんな思いでこの夜を迎えているんだろう……)  統也はネットに繋げると、更新されなくなった掲示板にメッセージを書き込む。 《僕は水原統也です。秀明高校3年、18才です。 今、C市のI地区にいます。自宅です。友達2人が一緒です。生きています。 明日、F地区の自衛隊駐屯地に向かいます。保護して貰える事を祈って》  ネットに実名を晒すなぞ馬鹿げていると笑われそうだが、既に日常は終えている。 (父サンが、知り合いが、見てくれるかも知れない。 そうじゃなくても、誰か、生きてたら返して欲しい。生きてるって教えて欲しい。 絶対に今を乗り切れるって、そう励ましたい……励まされたい……)  1人でも多くの生存者が確認できれば、それだけで明日への希望に変わる。 *
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