2日目。

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「な、何か、俺、すごい肉体労働させられてるような……」 「俺はこれから神経すり減らして運転するんだよ! 適材適所だろが!」 「は、はぃ、」 「それより、忘れ物 無いなッ? 何かあったって取りに戻れないからな!」 「はぃ……」  忘れ物は無い。命あっての物種だ。然し、悔いは残る。 岩屋が静かに車を発進させれば、自宅は徐々に遠のいて行く。 統也は後部座席の窓に張りつき、最後の最後まで家を見つめる。 「大丈夫だって。落ち着いたら帰ってくれば良いんだからさ」 「……そうですね、」 (母サン、ごめん、ごめんなさい…… でも、必ず帰って来るよ、ちゃんと葬るから…… 逃げずにちゃんと責任とるから……それまで待ってて、母サン……)  奪った命の責任なぞ取りようも無いが、ある種の覚悟は統也の胸の内にある。  あちらこちらに横転した車両をかわしながら走行する手間を除けば道程は順調。 死者達は相変わらず活動を止めずに動いているが、車の速度で振り切ってしまえば着いて来られる筈も無く、恨めしそうに手を伸ばすばかり。 「車、すごいですね」 「だろ? 走ってりゃ安全!」 「停まってても、この中なら安全そうですよ」 「いや、それがそうとも言えないんだ。 勿論、そう簡単に窓やドアは破られないけども、車に逃げ込んだカップルが車体ごとゾンビ集団に引っ繰り返らされてんのを見ちゃってさ。 移動手段としては便利で安全だけど、隠れ家にするには考えもんだ」 「そ、そうですか、」  あっさりとした岩屋の口調に、統也は表情を濁す。 * 「さて、ここいら辺りからF地区なんだけど……」  岩屋の声は曇る。 それもその筈、想像していた以上に この地区も荒んでいる。  彷徨う死者の姿は見えないが、路肩の左右に戦車が乗り捨てられている。 厳戒態勢が死者の横行を阻止したと言う事だろうか、目を向けるそこ彼処にボロキレの様になった遺体が折り重なって倒れ、酷い悪臭を放っている。 「……どうする?」 「念の為、もう少し近づいてみましょう。 駐屯地周辺は避難できる状況になってるかも知れないですし」  タイヤが遺体に乗り上げないよう注意しながら徐行運転。 暫く後に、自衛隊駐屯地の門が見えれば、岩屋はブレーキを踏んでハンドルに凭れる。 「あ~~人がいるようには見えねぇぞぉ~~」  門は半開き。 正門から入って真正面に見える建物は隊舎だろうか、多くの人が慌しく動き、その足跡だけが残された祭りの後の如く閑散さ。 まさか自衛隊ですら適わなかったと言うのか、統也はシートベルトを外す。 「オイ、降りるつもりか!?」 「誰かいるかも知れないから、」 「誰かって、こんなトコに誰がいるんだよ!? そんなんゾンビくらいだろぉが! バカなのか、お前は! これだからクソガキはぁ!」  ガキからクソガキに進化。 然し、念の為だ。岩屋に叱責されるも統也は車を降りる。
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