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(本当に誰も、いないのか……?)
救いを求めてやって来たが、ひと気の無さを痛感させられるばかりだ。
(これから俺はどうしたらいいんだ、どうやって田島を助ければいいんだ……
何も分からないまま、何処へ向かえばいい?
こんなんで本当に安全な地があるのか?)
昨晩は『避難所はある筈』と信じられた統也だが、現実を前に茫然自失。
目的意識も胡散霧消。
(考えてもみれば、民間人の受け入れが整ってたら幟を立てるなりして知らせようとするもんだよ。なのに、テレビもネットも、何処をどう探したって避難情報は載ってない)
統也は空を見上げる。
気持ちとは裏腹に澄み渡った青空は、薄い雲が棚引き、秋の色を浮かべている。
(飛行機もヘリも飛んでない……
もうとっくに、全ての機能が崩壊してしまったんだ……)
「絶望的だ……」
岩屋は助手席側の窓を開け、統也に呼びかける。
「オイ、ここはもう諦めよう! 突っ立ってないで早く乗れよ!」
「次は、何処へ行けばいいんでしょうか……」
「知るかよ! 兎に角、今の内にガソリン入れて、次の事はその後考えりゃいい!」
移動手段を失う訳には行かない。
岩屋の頭は見通しの良い時間に給油を済ませ、夜をどう過ごすかを考えたいでいる。岩屋の切り替えの早さは、ある種の才能だ。
統也はポケットからスマホを取り出すと、昨夜に書き込んだネットの掲示板を確認する。
やはりレスポンスは1件も無い。何にせよ、無駄な行為だった様だ。
「分かりました、行きましょう……」
統也が後部座席に乗り込むと、岩屋は慎重に車を後退させる。
静かに、静かに。なるべく音を立てず。
統也は暫く躊躇った後、掲示板に書き込む。
(死ぬのを覚悟すると手記を書く人がいるってけど、俺もそうゆうタイプなのかも)
《F地区自衛隊駐屯地、無人。残念です。
次は何処へ向かったら良いのか分からないけど、兎に角、移動し続けようと思う。
その方が、きっと安全だろうから》
統也にとっての書き込みは、既に生存記録だ。
この日のこの時間、自分は生きていたのだと、自分に言い聞かせる為の手記。
そうして、統也が掲示板に投稿し終えると同時、
《待って、行かないで》
統也が書き込んだメッセージの返信欄が更新される。
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