2日目。

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 ジャリ……と、踏み潰す砂粒の音が隊舎の壁に反射して静かに響く。 (昼間だって言うのに、何でこんなに暗いんだよ……)  隊舎入り口のドアも開け放たれている。 日差しを拒む様な舎内の薄暗さを注意深く見やれば、電球は割れ、テーブルや椅子が倒れ、酷く荒んだ様子が窺える。 (バリケードも整わない内にアイツらの侵入を許したのか?  ……いや、そうとも限らないか)  足元には薬莢が転がり、ブチ撒けられた血痕が床にこびり付いている。 激しい戦闘が繰り広げられていたに違いない。 《何処にいる?》 《正面の入口から入って、すぐに化け物に見つかって、何も考えないで逃げて……後は良く分からない、ごめんなさい。 でも、この部屋には武器がたくさん並んでます。もしかしたら武器庫かも》 《分かった。動かず待機して》 《ありがとう、本当にありがとう!》 (学校でもそうだった。沢山の自殺者がいて、それがアレに変化した。 ここでも同じ事が起これば、どんなに警戒していても守りきれなかっただろう。 防衛したくても、眠ってしまった人もいただろうから)  外部からであれば易々と侵入は許さない。然し、敵は内側にも発生する。 何が原因かは分からないが、突然 自殺する者が現れ、それが死者となって生者を襲う。街を見て来た限りでは寝倒れる者も多く、死者は難なく増えたに違いない。 (あっちは訓練を積んだプロか。非力でノロマ……であって欲しいな、)  統也は足元に転がっているライフル銃を拾い上げる。 勿論、使い方なぞ分からないが、鈍器として使用するくらいの効果は望めそうだ。 とは言え、このまま闇雲に捜索しても仕方ない。ここは慎重に考えながら進もう。 (正面から入って、どっちだ?)  生存者は立ち入って直ぐに襲われたそうだが、今は死者の姿は見られない。 挙って生存者を追い駆けて行ったのか、統也は周囲に目を配り、床の汚れに目を付ける。 (血痕が粉になって擦れてる…… 血が乾いた後に誰かが この上を走って行ったんだ。方向は左か)  こんな小さな痕跡に目星を付けられる様になるとは、2日目にして見事な洞察力。 (生存者が隠れていられるって事は、ここにいる死者の感覚や知能は それ程高くない。でも、アイツらは生きた人間を襲う為、紙一重を探し続ける。 だから、生存者の近くに必ずいる筈だ)  隠れている生存者を見つけるのは難しいが、ウロつく死者を見つけるのは容易。 《隠れてる部屋の前に化け物がたくさんいる。動いてる音が聞こえる》  生存者に近づくと言う事は、死者の目測に入る事と同意。 いつ死者が現れても応戦する心構えが必要だ。
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