2日目。

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 統也は運転席側に回り込み、窓をノック。 「何? 早くしろって」 「言いずらいんですが、こんな時でもお金が無いと機械が動かないみたいで」 「ああ……ホラよ、カード」  岩屋は人使いが荒い。 然し、2度も助けられている手前、文句も言えない。 統也はクレジットカードを受け取ると、給油を開始する。 この手の支払いシステムは、まだ機能する様だ。 「……」 「……」 「日夏、何してるの?」 「え!?」  岩屋にはガソリンスタンド内にあるだろう携帯缶を探して来いと言われている日夏だが、統也の隣にピタリとくっついたきり離れようとしない。 (そうだよな、怖くて1人じゃ行けないよな、) 「分かった。携帯缶は俺が探して来る。その代わり、給油は日夏がやってくれ」 「で、でも……」 「大丈夫だよ。このままレバー引いてれば勝手にいっぱいになるから」 「ご、ごめんなさい、」  仕事を押し付ける形となり、日夏はしょぼ暮れる。 勿論、統也にも恐怖はある。 日夏の気持ちが解かるからこそ仕事を変わってやろうと思うのだ。 存外、損な性分。  ガソリンスタンドに併設された休憩所の中にカー用品が販売されている。 その中に携帯缶の1つや2つはある筈だ。 統也は念の為、倒れた掃除用具入れから柄の長いモップを武器に選び、身構えながら半開きになったガラスのドアを足で突っついて開ける。 (俺、いつからこんな勇敢になったのかな? 何処か麻痺しちゃったのかな? 俺みたいな軟弱な男、ヤバイ事が起きれば一目散に走って逃げるもんだと思ってたよ)  人を助ける為、自分の命を天秤にかける。 そんな現実が訪れるとは想像もしない所か、武器を持って応戦する思い切りの良さが自分に備わっていたとは、これまでの日常からは想像も出来ない。 (まさかこんな)  レジカウンターから、突如 死者が飛び出す。 齧りつかれる前に死者の頭 目がけてモップをフルスイング。 ガツン!!  成す術も無く、グシャリ!! と壁に顔面を打ちつけ、死者の頭は弾け飛ぶ。 (冷静に対処できるようになるとは、やっぱり思ってなかったよ)  2~3日あれば大抵の事には順応するのが人間だとは聞くが、それは事実だった様だ。 車を振り返るも、岩屋と日夏は ここに死者がいた事に気づいていない。 何かあれば直ぐにキレる岩屋と泣き出す日夏を思えば、事勿れが1番良い。 統也は息をつく。 「フゥ……俺って逞しい」  車回りの備品と、四つの携帯缶を発見し、給油を万端 整える。 これでガス欠の事態に陥っても、当面は やり過ごせる。 騒ぎが起きずに用を終えられた事に、岩屋は上機嫌でハンドルを握る。 「さ、日が暮れる前に何処か、宿を見つけようか!」  宿と言われると旅行気分にもなるが、車窓の外は惨憺たる様。 然し、今は心の拠り所となる頼もしい仲間達だ。 「そうですね、行きましょう」 *
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