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3日目。
――3日目。
《世界が変化してから、まだ3日しか経っていないと言うのに、
もう長い事こんな当てのない旅をしているように思う》
吹く風は日を増して秋の気配を運ぶも、未だ肌に纏わりつく湿度が煩わしい。
「結構、物持ち良い家だったな!」
昨日に引き続き、車を運転する岩屋の機嫌は上々。
(昨日は給油した後、日夏の案内を受けて家に泊まらせて貰った。
運がいいのか悪いのか、家の中は無人で、当然 それを確認に行かされるのは俺で、岩屋サンは安全が分かるまでは絶対に車から降りて来ない)
『両親は忙しくて、殆ど家に帰って来ないんです。だからきっと……』
(両親の安否は分からず仕舞いで落ち込む日夏の気持ちをどう考えているのか、岩屋サンは必要な物資も同時に補給できた事に満足って顔だ)
統也は溜息を零す。
「どうした、水原君?」
「ぃぇ……今日はこれから、S県のY市へ向かうんでしたよね?」
「ああ。そこそこ距離はあるけどガソリンはあるし、食いモンもあるし、まぁ何とかなるだろ」
日夏は最後部の座席に横たわる田島を瞥々と見やる。
やはり、恐ろしく思う気持ちが誤魔化せずにいる。
(日夏は今年高校に入ったばかりの16才で、すごく小心者だ。
昨日の晩もトイレに行きたいと言って、2度も起こされた)
「大丈夫だよ、日夏。田島は眠ってるだけだから」
「ごめんなさい……でも……大丈夫なのに、何で縛りつけてあるんですか?」
日夏は田島を指差す。
いつの間にやら手足はロープで縛られているから、統也はギョッと目を丸める。
「えぇ!? いつの間にって、何ですか、これ!? これ、岩屋サンでしょ!?」
「あ? ああ。それか? あぁそうだよ。当たり前の保険だろ?」
「保険ってっ、やめてくださいよ! こんな犯罪者みたいな扱い!」
「やめろッ、解くんじゃねぇよ、バカ!!」
岩屋は急ブレーキをかけるなり運転席から手を伸ばし、田島を拘束するロープを解きにかかる統也の服を引っ張る。
「これは俺の車だぞ! 乗っける以上、荷物の扱いは俺が決める!」
「田島は荷物じゃありません!」
「何が荷物かも俺が決めるんだよ! 勝手な事すんな!!」
岩屋は勢い良く統也の頭は引っぱたく。
「イタッ、」
「良いか、良く聞け、クソガキ!
お前は眠ってるだけだから安全って言うけどな、コイツは飲まず食わずで今日で3日目だ! いつ死ぬか分からねぇ! 今この一瞬にショック死したって、おかしくねんだぞ!」
眠った儘である以上、気づかぬ間に田島が死んでしまう事もある。
そして、死者となって蘇えりでもすれば、不意打ちを突かれ兼ねない。
そんな危険分子を側に置く以上、最低限の備えはしておくべきだろう岩屋の主張を否定する事は出来ない。
統也は叩かれた頭を抑えながら、渋々と頷く。
「ゎ、解かりました、」
(そうなんだ。昨日の晩、皆で話し合った。これからどうしていくのかを)
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