3日目。

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(田島にこんな事をするなら、保険だって言うなら、先に一言くらい言って欲しかった)  車中の空気が重い。日夏は浮かない統也の顔を覗き込む。 「ぁ、あの、統也サン、F地区の駐屯地で着信音が鳴ってましたよね? あれは誰からだったんですか?」 「!」  ハッと息を飲む。すっかり忘れていた様だ。 (そうだ、そうだった! アレは、父サンからの着信だった!)  そんな大事な事を忘れてしまえる程、統也の現実は切迫している。 ポケットからスマホを取り出し、着信履歴を確認。 「やっぱり、父サンだ……」  統也の呟きに、岩屋はフロントミラーに目を向ける。 「いいぞ。かけてみろよ」 「はい!」  先程 引っ叩いたのはやりすぎたと、岩屋も反省している。 統也は期待に頬を赤らめ、リダイアルを押す。 (父サン、父サン、生きていてくれたんだ!!) Turururu――、  応答されるなり、統也は受話器に食いつく勢いで声を上げる。 「父サン!!」  ……  ……  反応は得られない。 「と、父サン……?」 「……あのぉ、もしもし?」  長い間をおいてから受話器から聞こえて来るのは女の声。 父親の電話の先に覚えのない女がいると知るなり、統也は声を詰まらせる。 (だ、誰だ!?)  一旦、スマホを耳から放し、今一度発信先の番号を確認。 間違い無い。父親の番号だ。 「すいません、あのぉ、もしもし?」 「は、はい! もしもし!? あの、そのスマホ、俺の父親の物だと思うんですが……失礼ですが、どちら様でしょうか?」  最善の注意をはらって統也が問えば、女は『ああ』と気怠く頷く。 「これ、一昨日の昼間に拾って、私のスマホ壊れちゃったんで、代わりに使わせて貰ってて。適当にいじってたら そっちにかかったもんだから…… ついでに外の情報、聞ければって」 「そ、そうだったんですか……あの、拾ったって、持ち主は?」 「そこまではぁ、ちょっとぉ……」 「何処に落ちてたんですかっ?」 「会社に」 「会社……水原工業ですか!?」 「そうですけど?」 「俺の父は水原達夫と言います! アナタはそこの従業員ですね!?」 「あぁ……これ、社長のスマホだったんだぁ」 「アナタ、まだ会社に!?」 「ええ。まぁ、」  所在を確認すると、統也は岩屋を窺う。 その目は『会社に立ち寄って貰えないだろうか?』と嘆願するものだがら、岩屋は渋々ながら頷く。身内に関する事なら一蹴りする訳にもいかない。 「良かった! それなら今から迎えに行きます!」 「いえ。別にイイです」 「そうですか! じゃぁ、……え?」 「だから、別にイイです」 「……ぇ?」
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