3日目。

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(いや、違うか……本当は怖い。怖くて堪らない。 だって、銃を握る手がこんなにも震えてる。 そんな俺が1度でも現実から目を背けたら、もう2度と立ち上がれない。 成す術もなく食われて終わる……) 「どうしても死ななきゃならなくなった時、出来るだけ潔くありたいから」 (今はこうして目覚める事が出来る。でも、次には分からない。 明日には俺も田島のようになっているかも知れない。 死んで、人を襲いに行くのかも知れない…… そうなったら、何一つ自分で決める事は出来ないんだ。 そうなる前に、少しでも前に進んでおきたい) 「父サンに会えたら、どうしても言わなきゃいけない事がある。 謝りたい事がある」 (俺が母サンを殺しました、って) 「何も言わないまま生き伸びる事も、死ぬ事も、俺には出来そうにないんです」  事実を胸に秘めておく事が辛い。 放っておけば何れ、この心の傷は大きく裂けてしまうだろう。 そうなれば統也自身、正常でいられるかも分からない。 「だから、岩屋サン達は先に進んでください。俺も、後から合流しますから」 「どうやってだよ!? 隣町レベルの距離じゃねんだぞ!? 新幹線も動いてねんだぞ!?」 「その辺は、後で考えます。 2人には先に行って貰って、葉円大や自衛隊を見回っておいて欲しいんです。 もし助けて貰えそうなら、救助要請、忘れずに頼みますよ?」  そう言って通話を切る。 岩屋はフロントガラスから統也を睨みつけ、ガタガタと震える。 「ガキのクセに……何でそうやって死に急ぐんだよ!?」  岩屋からすれば、統也は死にたがりにしか見えない。 とても理解できない心境だ。 然し、統也は母親を殺し、その躯すら葬らずに置き去りにしている。 全ては贖罪であり、重責から逃れる為の逃避。 (麻痺してしまったのかも知れない。 この狂った世界に馴染んでしまったのかも知れない。 俺こそが怪物なのかも知れない。だってもう、) 「体の震えは止まっているから」  統也は歩き出す。 引き止める事は適わないと知れば、岩屋はギアをリターンに、車を後退させる。
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