3日目。

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 C市中心部に残る統也は、ゲリラの市街戦さながらに物陰に身を隠して先を急ぐ。 (2人はもう行ったかな?)  岩屋の事だ、あれだけ説得しても聞き入れない統也を待つ程お人よしでは無い。 これまでは目的が決まってなかったからこそ、統也を待つに至ったのだ。 日夏にしろ、あれ程の小心者。統也を追っては来られまい。 (岩屋サンに任せておけば、少なくとも田島と日夏は安全だ。 きっと無事にY市に辿り着く。後は、あの大川由月と言う人に会えれば……)  気づけば統也も、あのホームページを立ち上げた人物に期待を寄せている。 まだ会った事も無ければ、生きているかも分からない相手だと言うのに、不思議な感覚だ。 (別に、あの人の仮説を信じたわけじゃない。 でも、何の前提も持てずにいるより、ずっと頼もしい)  陸橋下のポールに隠れ、ショーウインドウの反射や交差点のミラーを介して周囲を確認。死者に気づかれれば、騒がれる前に頭蓋を砕く。 ここ数日で随分と板に付いた兵士っぷりだ。 (流石に、中心部も奥に入ると死者の数が増えるな…… ああしてウロウロ歩いて、餌になる人間を探しているんだろう。 この中に俺以外の生存者がいたなら、当然それも警戒しなくちゃならない。 父サンのスマホを拾ったと言う人も……)  生きる望みを失った女を疑いたくは無いが、怪物の正体が生存者と代わりないなら疑う余地にもなる。 (所謂、釣りだ。 破壊と殺戮を楽しみたいって怪物からすれば、獲物を呼ぶトラップくらい張るだろうから)  死をチラつかせ、救出の手を招く。 そうして獲物が網にかかるのを虎視眈々と待つ。 そんな恐れを抱きながらも駐屯地に現れた日夏は大した度胸の持ち主だ。 最もは、藁にも縋る思いだったのだろうが。 (父サンの会社が見えて来た!)  ビルとビルの僅かな隙間に体を半身にして滑り込ませ、呼吸を整える。 隠れたこの位置から交差点を越えた50メートル程の距離に、統也の父親が経営する水原工業のオフィスビルがある。 だが、死者の数は目測する限り多数。この先は身を隠せそうな障害物も無い。 死者の視界に入らず辿り着くのは難しそうだ。 (幾ら非力でノロマだとしても、1匹ずつ片付けるんじゃ時間がかかるし、騒がれる。銃の弾数にも限りがあるから、万一に備えて無駄撃ちはしたくない。 そうは言っても、銃声を聞かれれば街中の死者を集めてしまうだろうから発砲は最終手段だ)
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