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死者の固い歯が食い込めば、全身に電撃が走る程の激痛。
目は眩み、頭の中も真っ白だ。
そして、成す術も無い次の瞬間、ヒュッ……と空を切る風。
ガツン!! ガツン!! ガツン!!
何が起きているのか、確認するよりも早く、取り巻いていた死者達が鉄パイプで殴り倒されていく。
「統也!!」
開けた視界に見えるのは大きな手。
統也の体は力強く引っ張り上げられる。
「と、父サン……?」
夢でも走馬灯でも無い。
見慣れた父親の顔に、統也の目からは堰を切った様に涙が溢れる。
「父サン、父サン、父サンっ」
「泣いてる場合か! 統也、走れ! こっちだ!!」
噛まれた左脹脛に痛みはあるが、父親との再会をここで終わらせたくない。
統也は足を引き摺りながら、父親が先導する退路を行く。
駆け込んだ先はオフィスビルの地下駐車場。
そこにある守衛の待機所に2人は飛び込む。
「ハァハァッ、ハァハァッ、」
「何とか巻けたみたいだな……」
痛みやら疲れやら、命辛々の喜びやら、統也は寝転んだまま起き上がれずに父親を見上げ、小さな子供の様に泣きじゃくる。
「うぅぅッ、父サンが、生きてたっ……うぅ、ううッ、」
「統也、父サンが生きてると思ってここに来たんじゃないのか?」
「信じてたよ、信じてたけど……うぅぅ、」
スマホは従業員の女が拾ったとだけ言う。
これまでの経験を踏まえると、父親の生存は絶望的としか思えなかったのだ。
父親は泣きやまない統也の頭を撫でる。
「手当てをしよう。傷を見せてごらん」
上半身を起こし、統也は鼻を啜りながら齧られた左脹脛を見やる。
そう簡単には破けないだろうボトムが食い破られ、血が滲んでいる。
「あぁ、歯形は付いちゃいるが、良かった……これなら止血で済むだろう」
「は、はぁぁぁぁ、喰い千切られたかと思ったよ……、」
肉をゴッソリ持っていかれでもすれば手の施しようも無い。
傷は負っても不幸中の幸い。
父親は引き出しから救急箱を取り出し、オキシドールをぶち撒け、止血を始める。
「感染とか……してるのかな、やっぱり……」
「いや、大丈夫だろう。そうゆうケースは見かけなかった。
でもなぁ統也、父サンを探しに来るにしたって、感心しないぞ。
お前も もう分かってるだろ? 世の中がどんなに変わってしまったか」
「……うん、」
「統也には安全な所にいて欲しかった」
岩屋が言っていた事だ。危険を犯す行為を父親は喜ばない、と。
だが、統也は自分の行動を間違ったとは思わない。
「でも、会えた……」
「――そうだな、」
勇気を振り絞った以上の成果。収穫だ。
父親に会えただけで生きる気力や、未来が切り開かれた様な気さえする。
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