3日目。

14/32
前へ
/210ページ
次へ
 死者の固い歯が食い込めば、全身に電撃が走る程の激痛。 目は眩み、頭の中も真っ白だ。 そして、成す術も無い次の瞬間、ヒュッ……と空を切る風。  ガツン!! ガツン!! ガツン!!  何が起きているのか、確認するよりも早く、取り巻いていた死者達が鉄パイプで殴り倒されていく。 「統也!!」  開けた視界に見えるのは大きな手。 統也の体は力強く引っ張り上げられる。 「と、父サン……?」  夢でも走馬灯でも無い。 見慣れた父親の顔に、統也の目からは堰を切った様に涙が溢れる。 「父サン、父サン、父サンっ」 「泣いてる場合か! 統也、走れ! こっちだ!!」  噛まれた左脹脛に痛みはあるが、父親との再会をここで終わらせたくない。 統也は足を引き摺りながら、父親が先導する退路を行く。  駆け込んだ先はオフィスビルの地下駐車場。 そこにある守衛の待機所に2人は飛び込む。 「ハァハァッ、ハァハァッ、」 「何とか巻けたみたいだな……」  痛みやら疲れやら、命辛々の喜びやら、統也は寝転んだまま起き上がれずに父親を見上げ、小さな子供の様に泣きじゃくる。 「うぅぅッ、父サンが、生きてたっ……うぅ、ううッ、」 「統也、父サンが生きてると思ってここに来たんじゃないのか?」 「信じてたよ、信じてたけど……うぅぅ、」  スマホは従業員の女が拾ったとだけ言う。 これまでの経験を踏まえると、父親の生存は絶望的としか思えなかったのだ。 父親は泣きやまない統也の頭を撫でる。 「手当てをしよう。傷を見せてごらん」  上半身を起こし、統也は鼻を啜りながら齧られた左脹脛を見やる。 そう簡単には破けないだろうボトムが食い破られ、血が滲んでいる。 「あぁ、歯形は付いちゃいるが、良かった……これなら止血で済むだろう」 「は、はぁぁぁぁ、喰い千切られたかと思ったよ……、」  肉をゴッソリ持っていかれでもすれば手の施しようも無い。 傷は負っても不幸中の幸い。 父親は引き出しから救急箱を取り出し、オキシドールをぶち撒け、止血を始める。 「感染とか……してるのかな、やっぱり……」 「いや、大丈夫だろう。そうゆうケースは見かけなかった。 でもなぁ統也、父サンを探しに来るにしたって、感心しないぞ。 お前も もう分かってるだろ? 世の中がどんなに変わってしまったか」 「……うん、」 「統也には安全な所にいて欲しかった」  岩屋が言っていた事だ。危険を犯す行為を父親は喜ばない、と。 だが、統也は自分の行動を間違ったとは思わない。 「でも、会えた……」 「――そうだな、」  勇気を振り絞った以上の成果。収穫だ。 父親に会えただけで生きる気力や、未来が切り開かれた様な気さえする。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加