3日目。

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「父サンはずっとここにいたの?」 「ああ。 お前や母サンの事は心配だったが、街があの状況じゃ帰るに帰れなかった。 混乱が始まって暫くは警察隊も民間人の避難を誘導していたが、それも追いつかなくてな」 「そっか……でも、父サンが無事で良かったよ」 「ああ。統也、母サンは? 母サンには会えたのか?」 「!」  統也の心臓が強く打ちつけられる。 そうなのだ、今ある事実を伝える為にも、統也は敢えての危険を冒したのだ。 (母サン……母サン……母サン……母サンは俺が、) 「……ゎ、分から、ない……、」  恐怖の余り、真実が口をつかない。統也の体は震える。 最愛の妻の安否は分からず仕舞いに、父親は力なく肩を落とす。 「そうか……」 「ご、ごめん……、」 (違うんだ、父サン……母サンは手遅れだった……それで、俺が……) 「謝る事は無い。安心しろ。母サンはきっと無事だ」 「……うん、」  統也は項垂れる。 統也の言葉を疑わない父親からすれば、怯える息子が不憫でならない。 然し、父親だからと言ってこの現状を変えてやる事も出来ない。 「統也、父サンの事は気にしないで良いから、お前は家に帰りなさい。 母サンも心配しているだろうし、その手筈くらいは整えるから」 「と、父サン!? もしかして、ここに残るつもりっ?」 「ここは先代から受け継いだ大事な会社だから、な……仕方が無い」 「なに言ってるんだよっ、今はそんな事どうでも良いじゃないか!」 「騒ぐなっ、ヤツらに気づかれるっ、」  口に戸を立てられ、統也は勢いを飲み込む。 「いいか、統也。あの化け物は目も見える。耳も聞こえる」 「し、知ってるけど、」 「それから、厄介なのは鼻が利くって事だ」 「鼻? 臭い?」 「生きているかどうかは、目や耳よりも臭いで判断しているようだ。 中には犬並みの嗅覚を持つのもいる。そうなれば、隠れていても見つかる」  運動競技場の屋内施設場で出くわした警備員の死者は それに当てはまる。 きっと、臭いで生存者である統也と田島の居所を嗅ぎ当てたのだ。 「特に、血の臭いには気をつけるんだ。それには敏感なモノが多い」  オキシドールを大量に散布したのは、血の臭いを誤魔化す為の小策。 父親も、だてに生き延びた訳では無いから頼もしい。 (この事は、岩屋サンと日夏にも教えてやらなきゃ)
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