3日目。

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「そうだ、父サン。父サンのスマホから電話がかかって来たんだ。 誰かは分からないけど、ここの従業員の女性で、父サンの電話を拾ったって。 生きる意味も無いから死ぬって言うんだ。 俺は、その人の事も気になってて……」 「まだ社内に残っていたのか……」 「1人で社長室に籠もってるらしい。出来れば助けてあげたいんだけど……」  父親が見つかったのだから、スマホの1つくらい冥途の土産にくれてやってもいい。 然し、自分の用が済んだからと言って、知らぬ振りで帰る事も出来ない。 「勿論、父サンは ここにいてくれていいんだ。 きっと中には アイツらがウジャウジャいる筈だから…… ただ、少しでも安全なルートがあれば教えて欲しい!」 「父サンだけ ここに残る何て出来る訳が無いだろ。 お前に危険な事はさせられない。部下を守るのだって父サンの仕事なんだから。 お前こそ、ここで休んでいなさい」 「駄目だよ、父サンっ、1人で何て絶対に無理だ! 俺も行く! 手当てもして貰ったし、俺はもう大丈夫だから!」 「統也、」 「それに、危険なのはアイツらだけじゃない、 生存者の中にも警戒しなきゃならないヤツがいる! 俺だってアイツらと戦って来たんだ、足は引っ張らないよ!」  親子揃って血は争えない責任感。 だからこそ、父親の腕を掴む統也の熱意は言って冷めるものでは無いのだ。 最も、ここに息子を1人残しても心配にかわりは無いから、父親は渋々と頷く。 「分かったよ、統也」  逞しく成長した息子を喜ぶべきか、父親としては複雑な心境だ。  父親が案内するのは、地下駐車場からもアクセス可能な非常階段ルート。 15階にある社長室までは自力で登らなければならないが、普段は防火戸によって閉ざされている事から、死者の出現は無いだろうと考えられる。 「良かった……父サンがいなかったら正面突破してた所だよ、」 「こんな時でも考えなしじゃ困るぞ? 正面から入ってもエレベーターは使えない。内階段を使おうものなら、死者に襲われて一貫の終わりだ」 「エレベーター、壊れてるの?」 「こうゆう時に使用するのは却って危ないから止めたんだ。 それにしても統也、お前、随分と物騒な物を持ってるが……それは本物なのか?」  左足を引き摺り、階段をひた登る統也の肩にぶら下がるのはアサルトライフル。 日本は拳銃社会では無いから、子供が持つ姿は異様だ。
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