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男が痴漢されたなんていえるか①
中学三年からボクシングジムに通い、高校でもボクシング部に所属する俺は、そこらの男子高生より、引きしまった筋肉質な体をしている。
制服を着ていても、格のチガイは明らかだし、坊主にピアスと、オラオラ系の見た目をして、同世代の男子はもちろん、大人の男も近よらず、目を合わせようとしない。
はずが、このごろ、毎朝、通学の満員電車で俺は、男に痴漢をされていた。
そりゃあ、肘鉄を食らわして、屈みこんだところ、強烈アッパーをぶちかましKOしたかったが・・・。
ジムのトレーナーであり、俺の師匠に「ぜったいに、なにがあろうと一般人に手をだすな。ジムやリング以外で拳をふるったら破門にするぞ」と命じられているし。
騒ぎになって「あんなヤンキーのような子が痴漢されたの?」とまわりや警察官に白い目で見られたり笑われたり、学校でも噂が広まったら、結局、損をするのは俺のほうだし。
もし、相手が狡猾なヤツなら「ガラのワルイ子に恫喝された!」と見た目からの偏見を煽って、被害者と加害者の立場を逆転しかねず、うかつに睨みつけることもできやしない。
せめて、電車をおりたら追いかけ、人目のないところで「いい加減にしろ」と壁ドンして、たしなめたかったものの、そのとき一斉に人が降車するに、犯人を探し当てるのもムリ。
ジムと高校を行き交う忙しい日々を送っては、電車や時間帯を変えられなく、相手が飽きるまで、耐えるしかないと。
もちろん、だれにも相談できず、一人でひたすら屈辱を飲み、エスカレートする痴漢の手つきに声を殺して歯噛みしつづけて。
その日はとうとう尻だけではなく、まえに手が滑ってきた。
俺が抵抗したり、表ざたにしないのをいいことに、どんどん、つけあがって、このままではジッパーを下ろし、侵入してくるかも。
なすスベなく絶望感を噛みしめながら、でも、一旦、忘れて、今日は思いっきり気分転換を。
小学校から長くつきあいのある、気心知れた友人宅にお泊り。
一か月に二三回、休みまえに夜通しゲームをするオタノシみの日だ。
ボクシングをはじめて、昔の面影なくイカツクなっても、ほとんど態度も距離感も変えず、親しくしてくれる親友。
まあ、彼にも痴漢について打ちあけられなかったが、ともに過ごすこの一時だけ、眉間を力ませず、頬を引きつらせず、口をへの字にせず、奥歯まで覗かせて心から笑えるもので。
そう、ぶっちゃけ、いつものオラついた俺は、多少、見栄を張っているから。
親と弟は親せきの家にいき、俺ら二人だけでレッツパーリー!
糞ゲーをプレイしつつ、いちいちツッコんだり、罵倒したり、笑いこけながら、友人が持ってきてくれた缶ジュースを煽ったところ。
「ぶは!なんだ、これ!?アルコールか!?」
「あーほんとだあ。パッケージ見てレモンスカッシュかと思ったら、母さんのレモンチューハイじゃん!」
わるびれなく、キャハハハハ!と笑うのに「こいつ、いつから酔ってんだ?」と眉をひそめる。
が、陽気に酔うのに呆れるより、好奇心が疼いて「べつに師匠に飲酒は禁じられていないしな」と缶をかたむけ、ごくごく。
初体験だったものだから、とたんに酩酊して、ワケもなく友人と大笑いして、床にのたうちまわって、それから、ひどく記憶が混濁。
しばし途切れていたような意識がもどったところ、俺は壁に手を突き、後方に尻を突きだしていた。
腰をつかみ、その背中をはあはあと眺めているのは友人。
「で?どうやって、満員電車で痴漢されているんだ?」
やばい!酒で前後不覚になって、口を滑らせたのか!?
酔っぱらったアホたれの俺よ、どこまで、しゃべっちまったんだ!?
あたふたしつつも、酔いのせいか、変質者のような息づかいをする、友人の欲情ぶりに当てられてか「はう、あ・・・」と熱く吐息し、脱力してしまう。
腰をつかむ手の、一本の指でこそがされるのに耐えきれず「尻を・・・」と応じてしまい。
「はあ、は、は、はじめは、おそる、おそる撫でて、そのう、ち、両手で揉んで、もみくちゃに揉んできて・・・」
「こう?」と片手で触診するように、じっくりと撫でてから、がっと両手でつかみ揉み揉み。
「くく、おまえとはツキアイが長いのに、お尻触ったのははじめてだな。
昔は知らないけど、今のおケツさいこーじゃん。
女より弾力があって、肌の張りもあって、手に跳ねかえってくるみたいで、こんなぷりぷりなら、エンリョしないでがっつり揉めるし。
ゼツミョウに筋肉のついたおケツ、まじエロいわあー、ムラムラするわあー」
「ば、か、は、く、うう、女の、より、って・・・はう、あ、あう、そんな、強く・・・!」
「ああ、女と比べられて、すこし傷ついた?それとも恥ずかしい?
でも、ほら、ミニスカの女子高生じゃなく、格闘の心得があるイキがった男子高生の、学ラン越しのお尻のほうが、痴漢は大好物で、犯罪だろうと触らずにいられないんだろ?
しかも『自分は男だから、ばれたら恥ずかしい』ってかすかに震えつつ、息をつめてガマンするのが、カワイイったらなくてさあ。
そうやって、ぷりぷりおケツを愛でながらも、やっぱ声が聞きたくて、もっと恥をかかせたくて、イジワルしてくるんじゃないの・・・?」
片手で尻を揉みながら、もう片手を下のほうへ滑らせ、指を割れ目に食いこませた。
といって、奥にのめりこまず、まえのほうに届くだけ指を伸ばし、股間をつんつんと。
まさに、調子をこいた痴漢が、尻から差しいれた指でちんこにイタズラしたのと同じ。
「はん、ああ、や、あ、く、だ、だめえ・・・!ふうあ、あ、ああ、あう、あん・・・!」
「ふ、ふふ、キンタマ、うしろからツツかれるの、気もちい?もどかしい?
ふうん、ちんこにイタズラしてほしくてたまんないってか。
俺に尻を振ってみせて、一丁前にオネダリしやがって。
ボクシングで大男を殴り倒す男子高生が、痴漢されて手も足もでず悶えるなんて、情けなくてやらしーの。
あれえ?こんなズボン張りつめちゃって、勃起しちゃったあ?
おまえ、男の手でイタズラされて、萎えるどころか、ちんこヨロコバセちゃって、あら、まあ。
そんなエッチな体で女、抱けるのか?ほら、ほら、なあ?」
猫の顎を撫でるように、うしろから股間をこしょこしょされて「やあ、やあん、あああん・・・」と猫が甘えるように喘ぎながら、涙をぽろぽろ。
ヨガっているからだけでなく、友人の指摘が図星だったものだから。
じつのところ、俺の真の悩みは、満員電車で男にイタズラされること自体でなく、痴漢されるようになって、異性の画像や動画を見ても、勃起しなくなったこと。
どんなにタイプの女を想像してもしゅんとして、でも、ほかの方法を試し自慰をしなかった。
万が一、痴漢を思い起こし、勃起して射精してしまったら・・・。
ボクシングを習いはじめるまでの中学時代「白くてなまっちろくて、女みたい」とさんざん冷やかされた、あのころに逆もどりしかねない。
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