美術館に出会いを求めるのは間違っているだろうか

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 時計が12時に差し掛かる直前で、やっと空調の効いた館内に入ることができた。とはいえ、まだ長蛇の待機列から開放されたわけではない。 「外は寒かったが、中はちょっと暑いくらいだな。やはり人が多すぎるせいか」 「壁がオレンジのアラベスク模様なのも、視覚的に暑苦しいですよね」 「装飾としてうるさすぎるな。列がなければ、右と左、どっちが常設展示エリアか特別展示エリアか迷う客もいるだろうな」 「暖房目当てなら常設展示エリアだけ見て帰っても良いんじゃないですか? 先輩的には地味な展覧会なんでしょ」 「地味は地味なんだよ。大正ロマン・昭和モダンがテーマで竹久夢二(たけひさゆめじ)伊東深水(いとうしんすい)が一点もないなんて。それでも、高畠華宵(たかばたけかしょう)中原淳一(なかはらじゅんいち)の原画が一点ずつでもあるのなら、やはり観ておきたい」  特設展示エリアに続く廊下の壁には、大正から昭和初期の少女雑誌や婦人雑誌の表紙が掲示されている。高畠華宵や中原淳一の手による美しい少女や貴婦人を眺めていると、効きすぎたエアコンとは異なる心地よい温もりを感じる。スマホで写真を撮りたくなったが、『撮影はお断りしております』の注意書きを見つけて諦めた。 「それにだ。流石に特設展のタダ券二枚渡してきた顧問に、常設展示の感想レポートのみ提出したら、活動認定されない可能性が高い」 「橋口先生もこんなに混んでるなんて知ったら驚くでしょうね。昨日の昼は私たち以外にも入場券配ってましたし」 「ああ、むしろ友人が学芸員やってる美術館が改装初日からガラガラだと可哀想だから行ってやってくれ、って感じだったからなあ」
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