月へふたり旅

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「いらっしゃいませ」 ムーンライトホテル最上階にあるラウンジにやって来た私たちが案内されたのは、奇しくもあの時と同じ、窓際の席だった。 頼んだのはもちろん、アフタヌーンティーセット。 3段のティースタンドに並んだ、宝石みたいなスイーツたち。 ポットに入った紅茶をティーカップに注いで、あたしたちはケーキをお皿にとった。 「……いただきます」 ケーキをひとくち食べたユズキが、しあわせそうな笑顔を浮かべる。 「うーん!……やっぱり、ここのアフタヌーンティーセットは最高!」 「ええ。とってもおいしい!」 「……見て。カンナ」 漆黒の宇宙に浮かぶ小さな地球を見つめて、ユズキがつぶやく。 「私たちの国、豆粒みたいに小さくて、どこにあるのかわからないわね」 「ええ。……あんなに小さな土地を手に入れるために、30年近く争っていたのがイヤになっちゃう」 平穏な生活、思い描いていた未来、そして親友と一緒に過ごす時間。 失ってしまったものは、たくさんある。 だけど。 「でも、生きていたから、またユズキとここに来られた」 「そうね。……また一緒に月に来られて、おいしいアフタヌーンティーセットを食べられて、よかったわよね」 「だから、ケーキもスコーンもサンドウィッチもおいしい紅茶も、全部味わい尽くさなくちゃね」 「ふふっ……そうね。そのとおりだわ」 「うふふふふっ」 窓ごしに眺める美しい景色。 おいしいスイーツとおいしい紅茶。 「あーっ、おいしい!」 「しあわせーっ!」 そして親友とのおしゃべりがあれば、私たちはいつだって、女の子だった頃に戻れるの。 たとえ、おばあちゃんになってもね! 【おわり】
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