月へふたり旅

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耐えて耐えて耐え忍んで、ようやく平和な世の中になった時、私は63才になっていた。 たぶん、私が住んでいる国も隣の国も、戦うことにうんざりして、やめ時を探していたんだと思う。 領土不可侵条約を結び、隣の国との通信が復活してすぐに、私はユズキに連絡をとった。 国からひとり一台支給されている通信用端末の、コール音が鳴り続く。 お願い、ユズキ。生きていて。 この通信に出て。 そんな心からの願いが通じたのか、端末の画面がオンになり、ユズキの顔が映った。 「……カンナ」 「ユズキ。……久しぶり」 「本当に。……カンナも元気そうで、安心した」 「ねえ、あの時の約束、覚えてる?」 ユズキはニッコリ笑う。 その笑顔はあの頃となにも変わらない。 「もちろん。今度、予定を合わせて月に行こうよ。……一緒に」 そして、私とユズキは月行きのシャトルに乗った。 お互い、国からの給付金で暮らしている身だから、日帰り旅行になったけれど。 「月に来るのも、久しぶり」 「お互い、年とっちゃったわね」 「ほんとにね」 「さて、どこに行こっか?」 「それはもちろん……」 笑顔の私とユズキは、声を揃えて言った。 「ムーンライトホテルのラウンジ!!」
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