プロローグ――なつやすみのしゅくだい――

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プロローグ――なつやすみのしゅくだい――

「どうして今日になるまでやらなかったの!!!」  三十代後半くらいの女性が、小学生くらいの子供を(にら)みながら怒鳴った。  女性と子供が向かっているテーブルの上には、多数のノートやドリル、教科書がある。  今日は八月三十一日。小学校の夏休みの最終日。  今まで夏休みの宿題をやってこなかった子供が、母親に怒られながら夏休みの宿題をやっているのだ。 「ごめん。だって、やりたいことが多すぎるんだもん。水泳、昆虫採集、山登り、ゲーム、漫画、えっと、それから……」 「……去年もそんなこと言っていたわね」  女性がため息交じりに言った。 「だいたい夏休みが少なすぎるんだよ」 「はあ? 少ない? 四十日以上あるのに、どこが少ないのよ!」 「少ないものは少ないんだよ! それに……」 「それに?」 「夏休みが終わっても暑いままじゃん。暑くてまともに勉強ができなくなるから、夏休みというものができたんじゃなかったっけ? だからさ、もっとあってもいいと思うんだ」  子供が口を(とが)らせ、現状の不満をそこに込めながら言った。 「そうなんでしょうけど、まずは宿題を終わらせる! 私も父さんも手伝うから!」 「はーい」  子供は渋々ながら女性の言ったことに従った。  この後、女性の夫が帰ってきて、彼も加わることになる。
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