流木拾い

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「そうなんですか。好きなことで稼げるのは羨ましい限りです」 「いえ、恥ずかしながら小説で稼げるのは月に三万円くらいなのです。投稿で得る図書カードやクオカードですとか、……貯金がどんどん減っていきます。先ほどつい見栄で気分転換に、と言いましたが、実情はこうやって流木拾いでもせっせと稼いでいるのです。」 僕は半ばあきれてつい言ってしまった。  「ええ。なぜ仕事を辞められたのですか」 「あなた、運量保存の法則をご存じではないのですか。何かを失うと、何かを得る法則を」 男はなぜか胸を張った。 「会社を辞めると言いましたら妻と子に大反対され、結果、離婚となりました。金運、家庭運、愛情運が私から去っていった。でも、これでいいのです。私に小説の神様が降臨する素地ができたのですから」 男の双眸がしだいに狂の光を帯びてきた。小説の神様の御利益はあるのかと訊きかけて、やめた。チェックのシャツはよれよれで、ズボンの股にはごはんつぶがこびりつき乾いていた。 僕はなんだか男が気の毒になり、彼が五千円と値をつけた男女のまぐわいの形の流木を買うと申し出、男に五千円をわたして流木を受け取った。彼は顔をくしゃくしゃにして喜び、頭を腰につけるようにして何度もおじぎをした。 「ありがとうございます、これで今月の通信費が払えます。御礼にあなたがたを小説に書かせていただきます。ああ、どんどん構想が沸いてくるぞ……! あなたはとある戦国大名のたくさんいる子息の一人。母親の身分が低いためほぼ無視されてきたが、戦をし和睦となった隣国の人質として送られることとなった。戦勝国の隣国の姫君に婿入りするのである。あなたには幼少時より付き従う二歳上の従者がいる。伊賀の忍者である彼は、実は女なのだ! 無論婿殿は気づいていない。婿殿の妻となった姫君と従者との恋のバトル! 婿殿の運命はいかに~~~! 姫君を奥様としますが、従者の方がよいでしょうか? 書き上げたらお送りしますので、連絡先を教えていただけませんか」 いや結構です、と言い残し、僕たちは砂浜を後にした。
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