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「確かに自分から進んで行きたいとは思わなかったし、誰かに誘われて行く機会も暫くなかった。けど」
不意に龍貴は景織子を見据える。
その強い眼差しにいきなり囚われ、どきりとする。
間近で見合う事なんてもうそろそろ慣れてもおかしくないはずのに、鷲掴みにされた心臓はいつだって平静を保てない。
「景織子となら行きたいって思った。なんでかって?景織子とならどこに行っても何をしても楽しいからな。行かない選択肢はない」
屋台の灯りに半分照らされた綺麗な顔が、優しく崩れる。
ここぞと言うタイミングで欲しい言葉をくれる彼に、いつも感情を掻き乱される。
胸がどんどん大きく波打ってゆく。
「着替える時間まではなくて、出先から直接来るしかなかったのは悪かった。それは謝る。余計な心配させたな」
景織子の頭をぽんぽん軽く叩きながら、龍貴は困ったように笑う。
「知っての通り、俺は殺しても死なないような男だ。こんな熱帯夜何したって結局暑いんだし、長袖長ズボンでもなんの問題もない。……それより俺は、景織子の方が心配だけどな」
「私?」
まさかの自分の名前が出て、景織子はきょとんとする。
「楽しみにしてた花火が始まる前に、間違ってもダウンしたりするなよ?俺の楽しみも半減する。温くなったお茶ならいくらでも飲んでやるから」
──ほら。
景織子の手からペットボトルを奪った龍貴は蓋を開け、彼女の唇にそれを強引に寄せた。
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