17人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひとくち」
不意にせがまれ、景織子は目を丸くする。
「これ……?」
「他に何がある」
「だって甘い物嫌いじゃない」
「このくそ暑い状況から一瞬でも逃れられるなら、話は別だ」
言い返す間もなく龍貴が近付き、景織子は慌てて氷を掬う。
程なく苺味の甘い氷は、恋人の口の中に収まった。
固唾を呑んで見守っていれば、やがて龍貴の眉が顰められる。
「余計喉乾いてきた」
彼が食べる前から、この展開は十分予想出来ていた。
忌々し気に言い捨てる龍貴に、景織子はがっくり肩を落とす。
「だーかーらー!苦手な物なんでわざわざ食べたのよ」
「景織子があんまり美味そうに食ってたから、ついつられた」
困ったように口角を上げる龍貴に、景織子は頬を赤らめる。
「どーせ、どんな猛暑でも極寒でも食欲だけは落ちない女ですよ」
スプーンを噛み締めた景織子に、龍貴は吹き出す。
「褒め言葉だ」
宥めるように頭を撫でてくる龍貴の手を受け、景織子は拗ねながらも無言でかき氷を口にする。
最初のコメントを投稿しよう!