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「屋台の焼きそばって久し振りだけど、とっても美味しい。……はい、あーんして?」
日中の飲食店内なら、恥ずかしさが先立ち積極的にはとても出来ない。
けれど今は陽の沈んだ19時過ぎ。
少し遠くに並んだ屋台の灯りで完全な暗闇ではないが、例え知り合いが間近にいたとしても簡単に識別不可能なくらいには暗い。
恋人の頭の中からアルコールと煙草を追い払う意味合いを込め、景織子は半ば無理矢理龍貴の口元に箸を近付ける。
何か言いたげな視線を一瞬向けられたが、思いの外すんなり開口した彼に景織子は安堵した。
「もっと食べる?」
大人しく咀嚼している龍貴に、景織子は再度勧めてみる。
普段から特別味にうるさくもなく、基本出された物は文句を言わずに食べる彼は、今回も浅く頷き了承した。
恋人の口に運んだ後、自分も同じく焼きそばを味わっていれば、若干の小馬鹿さと感心が同居したような声が届く。
「よくもまあこれだけの人間が大集合出来るよな。熱帯夜だってのに」
周囲を見渡した龍貴が、鼻に皺を寄せる。
「私達だってその内の2人じゃん」
「人口密度が高い分、余計に暑苦しくて適わない」
景織子の指摘は見事にスルーし、コーヒーを一気飲みした龍貴が勢いよく立ち上がる。
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