恋の大輪、夜空に咲く花

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「飲み物買って来る」 周囲に敷かれたビニールシートの間を上手く縫ってゆく恋人の背を、景織子は無言で見送る。 思わず漏れた小さな溜め息をない事にするべく、景織子は残りの焼きそばを急ぎ気味に全て平らげた。 「ぎゃっっ!」 それから暫く。 突如として右頬に走った真夏の夜に相応しくない刺激に、景織子は短い悲鳴を上げる。 「大袈裟過ぎだろ」 安定の大声に怯みながら、龍貴は買ってきたばかりのペットボトルを景織子に一本渡す。 「いきなりほっぺにつけられたら、誰だってびっくりするってば!」 直前まで氷水で冷やされていたお茶は、驚きのままぶつけようとしていた怒りを簡単に帳消しにする。 正直な喉がごくりと鳴るが、飲みかけのままブルーシートに載っているレモンティーにすぐ気付く。 やはりこちらを先に飲むべきかと逡巡していれば、隣りから伸びた手がペットボトルを素早く奪ってゆく。 口が悪くて、意地悪で、情け容赦ない。 けれど押し付けがましくなく、さり気なく、優しい。 すっかり温くなってしまった紅茶を飲み干した龍貴に、景織子は感謝を伝えた。
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