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「ありがと」
当の本人はつまらなそうにこちらを一瞥し、ほんの小さく反応を示しただけだった。
二つ目のボタンまで外された首元から、喉仏が確認出来る。
冷茶によって隆起する彼の喉を眺めている内に、景織子に申し訳なさが募ってゆく。
「……ごめん」
突如項垂れた景織子に、ようやく龍貴はペットボトルから口を離す。
「飲みかけのお茶飲んでやったくらいで」
「そうじゃなくて」
呆れる龍貴に景織子は力なく首を振り、改めて隣りの彼を見る。
オーダーメイドの最高級スーツのジャケットは車内に脱ぎ捨てられ、ネクタイは解かれてはいたが、下はパンツスタイルのまま。
肘ぎりぎりまで捲る事が出来るワイシャツと違い、下半身はどれ程不快か想像に難くなかった。
「無理矢理誘って、ごめん」
今夜の花火デートは、1カ月前からの約束だった。
スマートフォンのスケジュールを確認しては、近付く花火大会を楽しみにしてたのだが、そんな予定が急遽崩れてしまったのは1週間前。
本音を言うなら残念さは拭えなかったけれど、友達との飲み会や、ましてや浮気が理由でもない。
会社の代表として日々忙しく働く彼を承知で付き合い始めたわけだし、直前での予定変更は大なり小なり今までも幾度かあった。
だから急ぎの仕事が入った彼に『私は大丈夫だからお仕事頑張って』と、今回も笑顔で答えて終わるはずだった。
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