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「俺は行きたくない場所には行かない」
ぶっきらぼうに、龍貴が言葉を投げる。
「行きたいって最初に言い出したのはお前かもしれないが、最終的に行くって決めたのは俺自身だ。だから今夜の花火は無理矢理誘われた訳じゃない」
不機嫌になりつつある龍貴に、景織子は恐る恐る口を開く。
「でも、花火なんて10年以上は見てないって」
「事実を言ったまでだ」
「なんだかんだ言ってあなたは優しいから、気を遣ってくれたのかな、って」
年も性別も一切関係ない。
誰が相手だろうが自分の考えは決して曲げず、諂わず、間違った事は正し、嫌なものは嫌だとはっきり意思表示する彼。
恋人である自分に対しても、もっと優しい言い方があるのではと思う事も正直少なくない。
それでも誰よりも大事にしてもらってきたし、自分との時間を一番大切にしてくれていたのは紛れもない事実だった。
仕事の都合でどうしても約束を変更せざるを得ない時だって、後日こちらが申し訳なくなるくらいの埋め合わせをしてくれる。
一緒に行きたい場所も、二人でしたい事も、希望を伝えて今まで適わなかった事は一度もない。
そのどれもを嫌な顔せず、全部叶えてもらってきた。
本当に、十分過ぎるくらいに。
だから結論として、彼は優しい。
とても。
とてつもなく。
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