レッドフード・グランプリ

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目的の買い物を果たした桜辺紡は完全に陽が沈んだにも関わらず酷い暑さを残す帰り道を、いかに体力を使わず且つ最速で家にたどり着くかという一点のみに集中していた。 行き道は特に気にも付かなかった小さな公園。その横を通りがかりふと足を止める。 「この公園懐かしいな。昔は縁と一緒によく遊んだもんだ」 当時の記憶よりもやや手狭に感じる敷地。ボロボロの屋根の下にぽつんと存在する小さなベンチや長らく手入れもされていないだろう遊具たちの姿はどこか哀愁を感じさせる。 「って何をノスタルジックに浸ってるんだ俺は。さっさと帰らないとアイスが溶けて――――」 改めて帰路につくべく、その小さな公園に背を向けようとした瞬間だった。 桜辺の視界を何かが掠め、無意識にそれを視線で追うよりも速く。 ドガァッ!!と背後の公園で硬いものが衝突した様な轟音が鳴り響いた。 「――――何だ今の!?」 思わず反射で振り向いた彼の目に映った公園はほんの数秒前までの姿とは大きく異なっていた。 老朽化の進んでいたボロボロの屋根に加え、その下に設置されていたベンチすら原型を留めない程の破壊の跡。 「まさか隕石とか!? いやでもそんな事」 驚きや恐怖心に対して僅差で興味が上回る。 瓦礫の山と化したベンチスペースに駆け寄った桜辺の視界に入って来たのはある意味隕石よりも衝撃的なモノだった。 「…………人間、っていうか女の子?」 木と鉄とコンクリート破片の僅かな隙間から覗くのは大きな赤いフードが特徴的な少女の姿だった。 (落ちて来た……いやどこから!? 確かに空から女の子が降って来たらなんて妄想してたけどこんなのどうすれば、というか生きてるのかまさか死――――) 突然の出来事に頭の中が真っ白になりかける彼の意識を現実に引き戻したのは。 ガラ、と。僅かに動いた少女の腕から小さな瓦礫が転がり落ちる音だった。 (良かった、かどうかは分からないけど。とにかく生きてる!) 「おいあんた、大丈夫か! 待ってろ、すぐにこれどかしてやるから」 少女の体に極力負担をかけぬよう、急ぎながらも慎重な動作で瓦礫に手を伸ばす桜辺。 がしっ、と。 三つ目のコンクリ片に手をかけた桜辺の腕を突如掴んだのはか細い少女の腕だった。 「私から離れなさいっ!!」 突然に腕を掴まれ思わずぎょっとする桜辺だったが、それも直ぐに少女の容態に対しての心配の方が上回る。 「いやでもあんた酷い怪我を……、頭から血も出てるし」 「とにかく急いでここから立ち去りなさい! じゃないとあなたまで――――」 桜辺を見上げる少女の視線が彼の肩越しに何かを見つけた、と同時に。 「ぅぐえっ!?」 するりと滑らかな動作で少年の襟首を掴み、力任せに引きずり倒す。 「いってぇ! いきなり何すんの!? こっちは心配して」 いきなり地面に引き倒されて砂まみれになった顔で抗議しようと桜辺が顔を上げかけたところに。 ドカカカカッ。 「えっ」 異様な音に思わず桜辺は振り返る。 数舜前、自分が立っていたその場所に突きささっている鉄製の矢。 もし、少女の手によって地面に転がされていなかったら。 その光景が脳裏をよぎった少年の額に浮かんだ汗は猛暑が理由ではないだろう。
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