レッドフード・グランプリ

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うだる様な真夏の夜。 纏わりつく生温い空気を切り裂いて、赤い小さな人影がビルの屋上を駆けていた。 影の正体は大きなフードが特徴的な真紅の衣装で身を包んだ小柄な少女。 目深に被ったフードから覗くのは絹の様な金髪に深緑の瞳。整った顔立ちの少女の頬には汗と、血が滲んでいた。 「――――はっ、はっ」 小柄な彼女の頭をすっぽり覆い隠すな大きなフードは風の抵抗を受け後ろに流され、鳥の翼の様にその背中ではためいていた。 エアコンの室外機を足蹴にネオン看板の隙間をすり抜けていく姿はまるで真紅の飛燕。 その燕の軌跡を追う様に蠢く何かの群れがビルの屋上に列をなしている。 突如、少女が身を翻す。 彼女の背中を追いかけていた群れの先頭は虚を突かれたのか一瞬その体を硬直させる。 ゴッ、と。 振り向きざまに振り上げた少女の細い足先が群れの先頭に突き刺さった。 ばたばたと重なる様に倒れていく追っ手の姿が月明かりに照らし出される。 西洋兜をかぶった頭部に、剣や槍、弓を手にした両腕とコミカルにすら見える大きなブーツを履いた両足。 一見すると人型とも思えるその姿、だが一目でそれらが人間とは異なる異形の兵士である事が見て取れる。 その原因は胴体。 正面から見た形は長方形。異質なのはそれらを横から見た姿。 骨や関節、臓器など存在しえない筈の厚さ数センチの胴体部分、四肢の形状が半端に人型に近いアンバランスさが強烈な違和感を放っていた。 そして最も特徴的なのは四隅に記された数字と赤黒四種のマーク。 赤い少女を追う異形の群れは世界で最もポピュラーなカードゲームを基にした兵士の群れだった。 「まったく、しつこい連中ね」
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