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 彼女は何を言っているのだろう。なぜこの状況で、平然としていられるのだろう。兄嫁を凝視する未鈴の手に、何か冷たいものが触れた。 「ギャッ!」  反射的に振り払う。一瞬だけ、視界の端に見えた。未鈴の手に触れたのは、白く小さな、子どもの手。とても正視できず、目玉だけを動かして横を確認する。未鈴の指の先、タッセルでまとめられたカーテンの陰から半分だけ顔を出し、幼児がじっとこちらを見つめていた。 「未鈴さんと遊びたいのかしら」  あまりの恐怖に声も出ず、全身を震わせる未鈴に、友里恵はなおも意味不明なことを言う。  頭がおかしい。この人は頭がおかしいんだ。この家に住んでいるせいで、おかしくなったんだ。未鈴はカタカタ鳴る歯の奥から、義妹としてせめてもの忠告をしぼり出した。 「こんな家、引っ越した方がいい……っ」  すると友里恵は、ふと真顔になった。  バキィッ  鋭い家鳴りが響く。友里恵が困ったように眉尻を下げ、反対に口の端を上げた。 「やっぱり兄妹ね、夫と同じことを言うなんて」 「え……?」 「あの人も、ここを引っ越したいなんて言わなければ、死ぬこともなかったでしょうに」 「どういう、意味……」  引越したがらなければ、死ぬことはなかった。つまり兄は、引っ越しを望んだせいで死んだということだ。 「まさか……友里恵さん、が……?」
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