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 梅雨明け直後の蒸し暑い朝、洗濯物を干し終えた友里恵はダイニングチェアに腰を下ろした。2階のベランダには初夏の陽光が降りそそぎ、眼下の道をゆく女性は日傘をさしていた。今日も夏日になるだろう。  この家の中はいつも涼しいが、駅からの道のりで汗をかく。午後に訪ねてくる鈴乃のために、冷茶を用意した方がよさそうだ。 「お母さんの遺品で、渡したいものがあるの」  友里恵がそう言うと、鈴乃は叔母を疑うことなく簡単に招待に応じた。母親が最後にいた場所を自分の目で見たいという思いもあるかもしれない。未鈴の突然死から3ヶ月。現場に足を運ぶことができる程度には、気持ちが落ち着いたのだろう。 「久しぶりのお客様だわ」  友里恵の独り言に、パキッと明るい音が部屋に響いた。鈴乃の来訪が決まり、昨夜から家がそわそわしている。  未鈴が倒れてしばらくは、救急隊員や警察官が来て賑やかだったが、それもすっかり落ち着いてしまった。が一人増え、友里恵も以前と変わらずできるだけ在宅してはいるが、としてはやはり、もっと生きている人間にここで生活してほしいようだ。 「鈴乃ちゃんも、ここに引っ越して来てくれるといいわね」  鈴乃は昔から父親と仲が悪く、大学へも今の団地よりここからの方が近い。友里恵を慕ってくれているし、うまく誘えば実現の可能性はある。
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