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 未鈴はカップに一口分だけ残してある紅茶に目を落とし、義姉を引き止める文句を選んだ。 「でも……あたしもっと友里恵さんと話したいわ」  バスで20分、電車で1時間。友里恵の最寄駅までわざわざ出向いてきたのは、近況報告や世間話をするためではない。未鈴にとってそれは前座で、本題はこれからなのだ。 「せっかく来たのに、まだ1時間じゃないの。もう少しいいでしょう? ほら、紅茶もおかわりしたらいいじゃない」  友里恵のカップはとうに(から)になっている。結婚以降ずっと専業主婦の彼女は世間知らずなところがあり、退席しない口実にドリンクを少し残しておくという暗黙のルールも心得ていないらしい。  未鈴が差し出したメニューは、テーブルの中央に置かれたまま、受け取られることはなかった。 「悪いけれど、本当にもう帰らなきゃならないの」  枕詞に反して、友里恵の表情に悪びれた様子はない。柔和な笑みと落ち着いた声音で人格者に見せかけておきながら、兄嫁は昔から協調性に欠ける。変わらぬ頑固さに閉口した未鈴に、「でも」と彼女は言葉を継いだ。 「もし未鈴さんさえよかったら、家に来てくれたらもっとお話しできるのだけれど」  、か。未鈴は顔に出さないように気をつけながら、選択肢を天秤にかけた。
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